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護衛対象はキケンな男の娘 短編

くだらなくても勝つ

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 シーザーサラダとフライドポテトをつまみながら、ともに隣の口喧嘩を無視して話し出す。

「このふたりも相変わらずねぇ、会えばいつも喧嘩腰になるのに離れないんだから。いいのほっといて?」

フライドポテトを口に運びながら葵は蛍にといかける。

「ハジメのガス抜きは千秋じゃないとダメだから。本気で相手できるの千秋しかいないでしょ」

ちらと隣を見る。
 互いにジョッキとグラスを握りしめながらも手を出すことなく、口喧嘩に終始している。

「あたしの方が魅力的だ」

「いーや私だ」

「あたしの方がおっぱいが大きい」

「私のほうがカタチがいい」

「あたしの方がモテる」

「いーや、私の方がモテる」

 たしかにいい勝負だ、くだらない意味でだが。

「で、葵はどうするの」

「そうね、急ぎの仕事は片付いたから明日は助けに行くわ。少年Aも金曜まで登校したあと、土曜のお昼の便で留学の予定だから」

「期間は?」

「ひと月の予定。本当ならば夏休み明けまでの三ヶ月だったんだけど、御実家の意向でひと月になったの」

「おやまあ過保護なことで。それでなんで葵はハジメを指名したの? 気心しれた相手だからなの」

「違うって、指名したのは少年Aよ。ほら、ちょっと前にメディアで騒がれたじゃない、[アイドル格闘家ハジメちゃんが警察官に]って。あれを観てファンになっちゃったんだって、だから警護するならハジメちゃんじゃなきゃヤダーって言うもんでね」

 それを聞いて、三人は顔を見合わせる。
 それは千秋を襲おうと計画した悪党共を、逆に嵌めて逮捕した、いわゆる[キジマ事件]のことだった。

「じゃ、なに? あたしがこんな目にあってるのは元を正せば千秋のせいなの?! アンタのせいかーーーー!!」

「え、ちょ、ま、え、えーー」

 これにはさすがに言い返せなく、千秋は降参して平謝りするしかなかった。

※ ※ ※ ※ ※

 そろそろ終電の時間ということでお開きとなり、店を出て歩道を歩き栄駅へと向かう。
 千秋をやり込めた歓びで上機嫌のハジメは足取りが軽い。あとの三人は数歩後ろをまとまってついていく。

「帰りはどうするの? 私のクルマはツーシーターだから三人乗れないよ」

葵の問いに、蛍は千秋と電車で帰ると言う。

「そ、じゃあここでお別れね。私は駐車場までハジメと行くわ、それじゃあまたね」

 ハジメにも声をかけて別れの挨拶をすると、千秋と蛍は地下鉄へと向かう。葵はハジメに近寄り並んで歩く。

「酔の方は大丈夫なの」

「ぜんぜん平気。もう一軒いけるわよ」

 上機嫌のハジメに葵は安堵する。
 セントラルパーク周辺は照明で昼間のように明るく、若者たちがまだうろついていた。
 それらを避けて進むと、数人の男が少女に絡んでいる場面に出くわす。
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