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護衛対象はキケンな男の娘 短編

仕事は仕事

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 江分利夏生は理数系、とくに数学に特異な才能があるという。
 それが本当ならば、おそらく相場変動を予測する数式を考えついたのではないかとハジメは推測した。
 葵によると、彼は学校での評判は悪くないらしい。

「ウチもね、ジェンダーレスを推進しているのよ。江分利くんは女装しているけど成績がいいでしょ、さらに御実家が反社だから誰も文句言わないの。
 おかげで他のジェンダーで悩んでいる子が勇気をもらっているし、イジメとか差別の抑止にもなってるの」

「彼自身に問題行動は無いの」

「暴力、恫喝、イジメなど一切無し。周りも親は親、子は子って感じで気にしてないみたい。というのが北方先生の言葉よ」

「先生の言葉なら信用していいか。うーんでもミニスカがなぁ」

 江分利のいるクラスに着き、廊下から窓越しに覗き込む。
 静かで授業に集中している。問題の生徒も意外にも真面目にやっていた。

「殺害予告のこと、他の生徒には?」

「もちろん話してないわ。生徒を疑っているかもしれないだろうけど、生徒間での関係は良好──というよりも無関心ね。江分利くんは交換留学生として居なくなるし、進学希望は外国の大学だしね」

「江分利組に家庭が害されているとか」

「そういうのは警察そっちの仕事でしょ。じゃああとは任せたわよ。時々交代するから頑張ってね」

 葵はそれだけ言うと、戻っていく。
 ハジメはとりあえず先生と他の生徒を見回すが、怪しい動きをするものはいなかった。



 授業が終わり、休憩時間となる。

「おねーさまー」

教室を飛び出して江分利がハジメに飛びついてきた。
 思わず避けようとしたが、ジェンダー差別をしていると間違えられたくないと、思い直して受け止める。

「あーん、ステキなキ・ン・ニ・ク。さすが格闘家ー、ステキ、ステキ、ステキ」

 叫びながら逃げ出したくなる気持ちを抑えて我慢する。

「こ、こら、離しなさい、江分利くん、目立つでしょう」

「いーじゃない、おねーさまは有名人なんだから。それと夏生って呼んで。この間の事件での活躍スゴかったんですよねー。ネットでそれを知ってからもー、大ファンになっちゃったー」

軟弱男への拒否反応で気絶しそうになりながら、ハジメは違和感をおぼえていた。



 授業が始まり、名残惜しそうに離れていく夏生を見送ってから、ハジメは葵に見張りを代わってもらい外に出る。
 先輩の御器所を探したが見あたらなかった。スマホで連絡をとってみたが、あいにく話し中だ。

「どこに行ったんだろう、それに怪しい奴等なんていないじゃないの」

 仕方なく戻って葵と交代し、その日は毎回休憩時間になると夏生に抱きつかれて我慢するので終わった。
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