佐野千秋 エクセリオン社のジャンヌダルクと呼ばれた女

藤井ことなり

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ジャグジーの誓い 短編

その5

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「鏑井さん、これでもまだ信じきれないかもしれませんが、本当にボクとボスは上司と部下の関係以外何ものでもありません」

 なるべく悲愴感を感じさせないように、落ち着いて語りかけるように伝えるが、蛍はまるで聴こえないようにスマホに見入っていた。

「どうしたの? ケイ」

 千秋の問いかけを無視して、蛍は急に立ち上がると、駆け出してその場から居なくなる。

「ど、どうしたんでしょうか」

「さ、さあ」

「とりあえず服を着てください」

「あ、ゴメン」

 というと、千秋はその場で下着を着けはじめる。
 目の前で展開する上司の生着替えに呆れながら考える。

──この人、意外とポンコツかもしれない。ボクがしっかりしないと──

 千秋が着替え終わった頃、蛍が何かしらの紙を持って戻ってくる。

「ちょっとさっきの画像見せて」

 一色のスマホを引っ手繰って奪いかねん勢いで言うので、戸惑いながらも見せると、持ってきた紙と見比べる。

「……やっぱり一緒だ……」

「なにが?」

AAダブルエー先生の作品[スパダリは俺の嫁、なのに子犬キャラが受けのフリして奪いにくる]のワンシーンと一緒なの、ほらココ、スパダリを守るために子犬キャラを押し倒すトコロ」

 小説の挿し絵というか、プリントアウトした画像を見せる。たしかに一緒だった。
 蛍に見せられた千秋も同感する。

「これ一色くんなの?」

 千秋の言葉に蛍がピクっと反応する。

「このコ、一色っていうの?」

「ああまだ言ってなかったっけ? 一色テンマくん、私の頼りになる部下よ。だからケイ、さっきのコトは水に流して…」

「千秋!!」

「はい?!」

 思わずたじろぐ千秋に蛍は詰問する。

「一色ってコ、アメリカに行ったんじゃないの?!」

「え、あ、アメリカ研修の話は無しになって……って、これも言ってなかったっけ」

「──あんたってコは、あんたってコは、どうしてときどきポンコツになるのよぉ。言ってくれれば無条件で合格にしたのにぃ」

 目の前でおきてる急展開に一色はついていけなかったが、蛍も千秋がポンコツだと思っているのは理解した。

 蛍が一色の方を向くと、さっきとは裏腹にもじもじとした感じで話しかける。

「あ、あの、一色くん。いえ、一色さん……」

「は、はい」

「AA先生の新作を持っているというか手に入れたというのは本当ですか……」

 言われて理解した。
 先月のコンペに勝つためにAAのファンだった相手に新作を書いてもらい渡した一件の事を、千秋が蛍に話したことと、彼女もファンだということを。

「あ、あの、それ……、読ませてください」

 蛍は勢いよく深々と頭を下げた。
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