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ジャグジーの誓い 短編

その4

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 ──十分後、息を弾ませる蛍に、打たれまくっても倒れない一色がにらみ合っていた。
 軽快なフットワークでジャブを繰り返す蛍の攻撃はすべて当たる。だが一色は倒れない。

 だんだんとギャラリーが増えてきて、人だかりが出来てくる。その中には格闘の経験者もいて違和感に気づいてた。

「──ミット打ちの練習にしちゃあ違うところばかり打ってて変だよな」
「ああ、それに……、ほら、今のパンチなんか避けれるじゃないか。それなのに避けない。なんの練習だろう」
「わからんな。それに男の方の動きって……あれはまるで……」

 ボクシングと同じように三分攻撃して一分休憩の繰り返しをしている。今、三ラウンド目が終わった。

「ハァハァ、──アンタの意図は判ったけど、それでどうするつもりなの」

 息を整えながら蛍が問いかけると、一色も整えながら、さぁどうでしょうという表情でおどける。

「トレーナーだから体力無いって考えならあまいわよ、私は結構スタミナあるんだから。耐久力があるってアピールなら、これからも連打地獄は続くわよ」

「根性論って好きじゃないんですよ、ボクはわりと理論派ですから」

「やってることは理論的じゃないけどね」

 ブザーが鳴り、会話を止めて蛍はまたしてもジャブの連打を繰り返し始める。
 一色はまたもや防御一辺倒かと思いきや、蛍が近づいたタイミングでミットを蛍の顔に被せる。
 それを避けようとした蛍に一色は抱きついて押し倒し、そのまま押さえ込みにうつる。

「あまい」

 おおいかさばる一色を躱して、逆に腕十字ひしぎを極める。

「さぁ、もうどうしようもないわよ。諦めて負けを認めなさい」

 極められた右腕に力を込めながら耐える。

「まだです。言ったでしょう、理論派だって」

「関節技を耐えるのが理論的だっていうの」

「もちろんです、あ痛たたた」

「これが理論か」

「……はい、これだけ耐えればボクの勝ちですね。そこを見てください」

蛍は油断なく一色の指す方を見ると、そこには千秋の写真が貼ってあった。

 一色の意図を全部理解した蛍は技を外し、ため息をつく。

「ボクの勝ちですよね」

 腕をさすりつつ微笑みながら問いかける一色に、蛍は悔しそうに答える。

「──……よ」

「はい?」

「合格よ! まったくもう。千秋の盾になるために全部の攻撃を受ける。そして体を張って逃したって言いたいんでょ、わかったわよもう、何が理論派よ、やっぱ根性じゃん」

駄々っ子が拗ねるように謝るみたいだなと、一色は思わず笑ってしまう。

「なにが可笑しいのよ、さっさととシャワーを浴びて着替えてらっしゃい。話はそれからよ」

 それだけ言うと蛍は立ち上がり、足早に去っていく。それを見て一色は小さくガッツポーズをした。
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