240 / 322
ジャグジーの誓い 短編
その4
しおりを挟む
──十分後、息を弾ませる蛍に、打たれまくっても倒れない一色がにらみ合っていた。
軽快なフットワークでジャブを繰り返す蛍の攻撃はすべて当たる。だが一色は倒れない。
だんだんとギャラリーが増えてきて、人だかりが出来てくる。その中には格闘の経験者もいて違和感に気づいてた。
「──ミット打ちの練習にしちゃあ違うところばかり打ってて変だよな」
「ああ、それに……、ほら、今のパンチなんか避けれるじゃないか。それなのに避けない。なんの練習だろう」
「わからんな。それに男の方の動きって……あれはまるで……」
ボクシングと同じように三分攻撃して一分休憩の繰り返しをしている。今、三ラウンド目が終わった。
「ハァハァ、──アンタの意図は判ったけど、それでどうするつもりなの」
息を整えながら蛍が問いかけると、一色も整えながら、さぁどうでしょうという表情でおどける。
「トレーナーだから体力無いって考えならあまいわよ、私は結構スタミナあるんだから。耐久力があるってアピールなら、これからも連打地獄は続くわよ」
「根性論って好きじゃないんですよ、ボクはわりと理論派ですから」
「やってることは理論的じゃないけどね」
ブザーが鳴り、会話を止めて蛍はまたしてもジャブの連打を繰り返し始める。
一色はまたもや防御一辺倒かと思いきや、蛍が近づいたタイミングでミットを蛍の顔に被せる。
それを避けようとした蛍に一色は抱きついて押し倒し、そのまま押さえ込みにうつる。
「あまい」
おおいかさばる一色を躱して、逆に腕十字ひしぎを極める。
「さぁ、もうどうしようもないわよ。諦めて負けを認めなさい」
極められた右腕に力を込めながら耐える。
「まだです。言ったでしょう、理論派だって」
「関節技を耐えるのが理論的だっていうの」
「もちろんです、あ痛たたた」
「これが理論か」
「……はい、これだけ耐えればボクの勝ちですね。そこを見てください」
蛍は油断なく一色の指す方を見ると、そこには千秋の写真が貼ってあった。
一色の意図を全部理解した蛍は技を外し、ため息をつく。
「ボクの勝ちですよね」
腕をさすりつつ微笑みながら問いかける一色に、蛍は悔しそうに答える。
「──……よ」
「はい?」
「合格よ! まったくもう。千秋の盾になるために全部の攻撃を受ける。そして体を張って逃したって言いたいんでょ、わかったわよもう、何が理論派よ、やっぱ根性じゃん」
駄々っ子が拗ねるように謝るみたいだなと、一色は思わず笑ってしまう。
「なにが可笑しいのよ、さっさととシャワーを浴びて着替えてらっしゃい。話はそれからよ」
それだけ言うと蛍は立ち上がり、足早に去っていく。それを見て一色は小さくガッツポーズをした。
軽快なフットワークでジャブを繰り返す蛍の攻撃はすべて当たる。だが一色は倒れない。
だんだんとギャラリーが増えてきて、人だかりが出来てくる。その中には格闘の経験者もいて違和感に気づいてた。
「──ミット打ちの練習にしちゃあ違うところばかり打ってて変だよな」
「ああ、それに……、ほら、今のパンチなんか避けれるじゃないか。それなのに避けない。なんの練習だろう」
「わからんな。それに男の方の動きって……あれはまるで……」
ボクシングと同じように三分攻撃して一分休憩の繰り返しをしている。今、三ラウンド目が終わった。
「ハァハァ、──アンタの意図は判ったけど、それでどうするつもりなの」
息を整えながら蛍が問いかけると、一色も整えながら、さぁどうでしょうという表情でおどける。
「トレーナーだから体力無いって考えならあまいわよ、私は結構スタミナあるんだから。耐久力があるってアピールなら、これからも連打地獄は続くわよ」
「根性論って好きじゃないんですよ、ボクはわりと理論派ですから」
「やってることは理論的じゃないけどね」
ブザーが鳴り、会話を止めて蛍はまたしてもジャブの連打を繰り返し始める。
一色はまたもや防御一辺倒かと思いきや、蛍が近づいたタイミングでミットを蛍の顔に被せる。
それを避けようとした蛍に一色は抱きついて押し倒し、そのまま押さえ込みにうつる。
「あまい」
おおいかさばる一色を躱して、逆に腕十字ひしぎを極める。
「さぁ、もうどうしようもないわよ。諦めて負けを認めなさい」
極められた右腕に力を込めながら耐える。
「まだです。言ったでしょう、理論派だって」
「関節技を耐えるのが理論的だっていうの」
「もちろんです、あ痛たたた」
「これが理論か」
「……はい、これだけ耐えればボクの勝ちですね。そこを見てください」
蛍は油断なく一色の指す方を見ると、そこには千秋の写真が貼ってあった。
一色の意図を全部理解した蛍は技を外し、ため息をつく。
「ボクの勝ちですよね」
腕をさすりつつ微笑みながら問いかける一色に、蛍は悔しそうに答える。
「──……よ」
「はい?」
「合格よ! まったくもう。千秋の盾になるために全部の攻撃を受ける。そして体を張って逃したって言いたいんでょ、わかったわよもう、何が理論派よ、やっぱ根性じゃん」
駄々っ子が拗ねるように謝るみたいだなと、一色は思わず笑ってしまう。
「なにが可笑しいのよ、さっさととシャワーを浴びて着替えてらっしゃい。話はそれからよ」
それだけ言うと蛍は立ち上がり、足早に去っていく。それを見て一色は小さくガッツポーズをした。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。
紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。
アルファポリスのインセンティブの仕組み。
ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。
どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。
実際に新人賞に応募していくまでの過程。
春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)
あげは紅は ◯◯らしい
藤井ことなり
キャラ文芸
[紅あげは]は 私立聖真津洲留高校の2年生。
共働きの両親と年の離れた弟妹の面倒をみるために、家事に勤しむ毎日を送っていた。
平凡な毎日であったが最近学校ではちょっと変な事が流行っていた。
女の子同士がパンツを見せ合って勝負する
[パンチラファイト]
なぜか校内では女子達があちこちでスカートをめくりあっていた。
あげは はそれに全く興味が無く、参加してなかった為に、[はいてないのではないか]という噂が流れはじめる。
そのおかげで男子からスカートめくりのターゲットになってしまい、さらには思わぬアクシデントが起きたために、予想外の事件となってしまった。
面倒事に関わりたくないが、関わってしまったら、とっとと片付けたい性格のあげはは[パンチラファイト]を止めさせるために行動に出るのであった。
第4回キャラ文芸大賞参加作品
恋愛が運命を決めないとしたら平和かもしれない
三谷朱花
キャラ文芸
茜はある本を読みたいと思ったことをきっかけに前世の記憶が戻ってきて、この世界が茜の知っている前世の世界とは違うことに気付く。この世界は、恋愛の概念がない世界で、「好き」も「不倫」も「略奪愛」も存在しえない。だからその本も存在しない。前世の記憶を思い出したことから茜の平穏だった生活に変化も出てきて、茜の思わぬ方向に…。そんな中でもその本を読みたい茜と、周りの個性的な人々が織りなすお話。
※アルファポリスのみの公開です。
※毎日大体夜10時頃に公開します。早かったり遅かったりしますが、毎日します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる