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ジャグジーの誓い 短編

その2

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 千秋と聞いて一色はハッとする。

「ボスと知り合いなんですか」

 あらためてよく見る。
 身長は千秋と同じくらいで髪はショートカット、メガネをかけたその顔は知的でウェアを着たその体型はスレンダー、しかしスポーツジム関係者らしく健康的であった。
 いかにもトレーナーらしい姿だ。

「ボス? ああ千秋のことね。小学生の頃からの友達よ、親友と言ってもいいわ」

「そうですか。ボクは……」

「名前なんか聞かなくていい、千秋には不合格と言っておくわ」

そう言って測定結果を一色の前に突きだす。

「こんな体力でどうやって千秋を守るというのよ。あんた先月の事知ってるの?」

 先月、それは千秋がキジマ達不逞の輩に襲われかけた事だと一色は理解した。

「はい」

「なら分かるでしょう、女である千秋は男よりそういう暴力にあう確率が高いのよ。あんたそれで千秋を守れるの」

「……」

「信じられない、千秋も目が曇ったものね、優秀で信頼できるコだと言ってたのにさ」

「ちょっと待って下さい、ボクの体力が無いのは認めます。でもボスのことは悪く言わないでください」

 体力が女子高校生並みで温厚で飄々とした性格の一色ではあるが、決してヘタレではない。
 ましてや忠誠を誓った千秋を馬鹿にするような言い草は聞き捨てならなかった。

「はあ? 本当のこと言って何が悪いのよ? 本来なら私が千秋の側でサポートしたいのよ、でもさすがに会社内の事までは出来ないの。今から就職しても同じ部署になるとは限らないし、動きが制限されるからね」

 イラついて半分吐き捨てるように言いながら睨む女に、一色も睨み返す。

「だからアテになる人材を紹介してって言ったのにさ、それがコレだとはね。文字通り当てが外れたわ。もうケッコウよ、さっさと帰りなさい」

 もう興味は無いわとばかりに背を向けて去っていく女に、待ってくれと一色は叫ぶ。

「体力が無いだけ判断しないでくれ、ボクは役立たずじゃない」

「それじゃ何があるっていうのよ。いい? どんな能力があっても最後にモノをいうのは体力なの。営業能力がある、事務処理能力がある、だとしても、ここ一番というときに寝込んだり倒れたりしたら意味が無いでしょう? だから基礎中の基礎、基本中の基本である体力を測ったの」

 正論だった。
 返す言葉も無かった

「解ったのなら帰りなさい」

「──解りました、帰ります──今日のところは」

「はあ?」

女は眉をひそめる。

「どうやら貴女もボスが大事な人みたいですね。そしてボスも貴女を信頼している。ならば貴女に認められる必要があるようですから、また来ます」

 そう言い放つと一色は立ち上がり、ペコリと頭を下げて更衣室へと向かった。
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