佐野千秋 エクセリオン社のジャンヌダルクと呼ばれた女

佐野千秋の休日 西南奔走

その５ 完結

　それから２時間後、千秋は新幹線に乗り大阪から小倉に向かっていた。

今日、大阪でサトウとスズキに会ったのは誰にも、いや、護邸に知られたくなかったからだ。
それゆえ、熊本支店の人達には休みを利用して小倉で観光してくると言い、五坊野には今日会いに行くとは伝えてなかった。

　郷常務には一色経由で尋ねているから、何か言われたら五坊野さんが訊きたがっていたと伝えよう。
これで私があの2人には会ってない事になる。郷常務もあの2人の行き先は護邸に話してないと言っていた。

「あてにはならないけどね」

車窓に映る自分に向かって、独り言のように呟く。

今回の事は、護邸の思惑なのか郷の思惑なのか、それとも2人のものなのか分からない。掌の上で踊らされて、全部向こうに筒抜けになっているのかもしれない。

「向こうが５手先まで考えるのなら、こっちは３手先を２回、早く考えればいい」

そう課長ズに言われたが、実際にはうまくはいかないだろう。だから

千秋のスマホに着信があった。

周りに誰もいないのを確かめてから、通話にする。

「ボス、やっておきました」

「ありがとう、こっちも予定通りよ」

「ではよい休日を」

お土産持っていくわね、と言って通話を切る。

だから、３人同時に３手先を考えることにした。

　蛍にサクマ退治と後始末の作戦を考えてもらい、自分と一色で同時行動をする。

サクマ退治の画像をドラマチックに優勢勝ちするように編集したものを手土産に、スズキから情報を手に入れるのが本来の目的だった。

しかし、本人が行方不明だったので頓挫する流れだったが、思わぬ事で会うことができ、目的を果たせた。

そしてそれとは別に蛍と一色が別々の行動を起こす。

サクマを倒したあと、全裸にして体中に油性ペンで落書きをしてそのまま放置する事を、ずっと撮影していた。それを一色がさらに情けなくなるように編集して、誰がやったかわからないようにしてネットにあげたのだった。
これでサクマは、にらみを効かせられなくなる、夜の世界での立場がなくなるだろう。

　そしてその前に、蛍がアンダーワールドのネットワークを使い、サクマアラシゲ復讐代行のサイトをあげ、被害者とその家族から依頼を受け付けていた。
復讐の成功は動画で確認してもらい、そのうえで報酬を受け取る。
そしてそれは成功し、報酬はけっこうな金額となった。

「今後千秋は、出世のための資金が必要になるわ。だからあたしが代表のホールディング会社をつくって、このカネは資金運用と貯蓄をしておくわね」

蛍の提案に、千秋は受け入れ任せることにした。



　夜景が消える、関門トンネルに入ったらしい。千秋は映りが濃くなった自分にまた話しかける。

「あの時、常務はスズキさんの横領を知っていた。それが何故か、そしてどうして証言する気になったのか、それが知りたかった。

あの日、横領の事実を秘書加納さんに突きつけられたと言った。そして自分のせいだと証言してくれたら、課長を助けると持ちかけられたと」

しかし、サトウの暴走によりその計画は台無しとなり、今に至る事になる。

「まだ分からない事はあるけど、ひとつはっきりした。常務にはスパイか情報網がある」

今はまだ味方であるが、本社社長を目指す以上いつかは越えなければならないライバルになる。その時に足元をすくわれないようにしなければ。千秋はそう気を引き締める。

「けどまあ、今はいいか。抜く時は抜かないとね」

明日は小倉をゆっくり観光しよう、それと一色くんとケイにお土産を買っていかないと、ああ、塩尻さんと町屋さんと、塚本さんと……

小倉の名物ってなにかな、と考えながら新幹線に揺られていた。


ーー　了　ーー