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佐野千秋の休日 西南奔走

その2

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「シゲちゃん」

外に出した顔を少しづつ引っ込めていくスズキに、サトウはあわてて説明する。

「いや、ちがうんだ。オレが呼んだんじゃない、佐野が勝手に来たんだ」

空気を察した千秋も、あわててサトウのフォローをする。

「本当なの、課ちょ…じゃなくて係長でもなくて、サトウさんに会いに来たの…じゃなくて、その…」

2人のあわてぶりにますます警戒するスズキは、ドアを閉めて鍵をかけてしまう。

「ホノカ、大丈夫だ、安心してくれ、危険はないから」

「スズキさん、誤解しないで、お願い、開けて」

「佐野、お前は黙っていろ。ホノカ、ホノカ、大丈夫だから、話を聞いてくれ」

 30分ほどかけてサトウが説得して、やっと納得したスズキがドアを開けて中に招き入れてくれた。

ここに来るまで道々サトウから今のスズキの状態を聞いていた千秋は、思ったより重症だなと感じる。

「こっちに来たばかりの時はそれほどでもなかったんだが、日に日に人と話せなくなってな。大阪人の気質が合わなかったみたいなんだ。そのうち人に会うのも怖くなって、部屋から出なくなった。私と一緒なら普通に出歩けるんだが、ひとりきりになると部屋から一歩も出ない」

 千秋は深呼吸をして何かしらの覚悟を決めると、サトウに続いて部屋に入る。
そこはかとなく緊張した空気の中、千秋は居間のちゃぶ台を前に座り、対面にサトウとスズキが寄り添って座る。
千秋からは見えないが、おそらく手を繋いでいるだろう。

相変わらずラブラブなんだなと千秋は思った。

「あの……」

スズキがおずおずと話しかけるが、途中でやめてサトウの顔をみる。
サトウは無言で首を振り、それを見てスズキが首を振る。

シゲちゃん、かわりに聞いて
自分で話しなさい
ううん、無理

そんなところだろう

どっちでもいいから早う話さんか!! と言いたいのをガマンして、千秋は話しかけるのを待つ。

「あの、……今日はどういったご用件で……」

ようやくスズキが訊ねると、怯えさせないようにかといって媚びないようにして、千秋は話し出す。

「驚かせてごめんなさいね、スズキさん。今日、ここに来たのは偶然だけど偶然じゃないの。あなたに用があったからなのよ」

「あの…それはどういう…」

スズキの疑問に、今日ここに来るまでの経過を話す。

上司命令で熊本に行った事
熊本でサトウの上司に会った事
手紙を渡すようにと頼まれた事
再就職先を知っている常務に尋ねてここに来た事

そこまで話すと、サトウは懐から封筒を取り出しスズキに見せる。それでようやく納得してくれたのか、やっと安心した笑顔を観せてくれた。
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