佐野千秋 エクセリオン社のジャンヌダルクと呼ばれた女

藤井ことなり

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佐野千秋の休日 西南奔走

オーバーカム・ナイト 大阪

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 「疑うんなら会社に問い合わせてみてくれ、ホノカの籍はもう無いよ。こちらに来てすぐに会社を辞めていなくなったからな」

サトウはフッと鼻の先で笑い、その場を立ち去ろうとするが、千秋は手を掴みとどめる。

「待ってください、私は訊きたいことがあるから来たと言いましたよね。それはスズキさんの居場所なんです。会社を辞めたこともじつは知っています、スズキさんの御実家を訪ねた時に、両親も知らなくて心配している事を伝えたいんです」

「君にはもう関係ないだろう、ホノカの居所なんて私も知らないんだ。用済みの私に連絡があるわけないだろう」

「課長、もういいんです、守らなくていいんです、スズキさんに大丈夫だと伝えたいんです」

「なにを言っているんだ、私は知らないと言っているんだ」

感情的になってきた自分に気づいて、千秋はいったん深呼吸する。そしてサトウの襟を掴み、顔を近づける。

「課長が彼女を守りたい気持ちは分かります。ですが、いつまでも怯えて暮らすわけにはいかないでしょう、御実家にいった時に東京から帰ってからしばらくは部屋から出ない引きこもり生活をしていたと聞きました。おそらくですが、こちらでもそんな生活をしているんじゃありませんか」

問いかけるように見つめる千秋の目を、サトウは思わずそらす。誰が見ても図星をさされたのは明白だった。

「課長、スズキさんに会わせてください。彼女の心を救えるかもしれないんです、お願いします」

千秋の真剣な言葉にサトウは黙り込むが、少ししてから問い返す。

「なにが目的なんだ、ホノカのことなんか君には関係ないだろう……」

「ただのおせっかいです、お願いします、会わせてください」

サトウは迷った挙げ句、会わせるとこたえてくれた。
千秋がありがとうございますと言うと、これでさっきの借りは無しだからなと言い、続けて

「それと課長はよせ、私はもう係長だ」

と、顔をしかめながらそう言った。


 しばらくして、2人は倉庫会社の社員寮に着いた。2階の端の部屋に灯りがついている。
そこが部屋だとサトウは言い、先に階段をあがり、千秋はその後に続き、部屋の前まで来ると、サトウがスマホを取り出し、電話をかける。

「ただいまホノカ、いま、着いたよ」

通話を切り、しばらくするとドアが中から開く。

「おかえりなさい、今日は遅かったのね」

エプソン姿のスズキホノカが、笑顔で顔を出す。

「じつは来客があったんだ」

千秋がサトウの後ろから顔を出す。

「久しぶりね、スズキさん。佐野です」

スズキが少し怯えた顔に変った。
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