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佐野千秋の休日 西南奔走

その5

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「なんだと思います」

「さあ、そこまでは……、なにせあちらは40代で常務になった方で、こちらは定年間近でお情けでやっと課長になった身ですからねぇ。私には思いもつかない事を考えているんでしょう」

沈思黙考のあと、町屋が駒を動かしながら口を開く。

「塩尻課長の言うとおりだね。下手な考え休むに似たりだよ、部長さん。火中の栗を拾うつもりでいた方がいいかな」

パチン

「あ、そうきたか」

塩尻の顔が歪む。町屋課長は無表情のままお茶をすすると、言葉を続ける。

「だからといって何も考えないのはいけないよ。向こうが5手先を考える人なら、こちらは少なくとも3手先を考える人にならないと」

「それじゃ考え負けしちゃうじゃないですか」

千秋の拗ねるように言う言葉を、無表情で受け取る。

「なら、思考を早くしましょう。向こうが5手考えるうちに、こちらが3手を2回考えれば、勝てますよ」

「そうですねっと」

パチン

塩尻も同意した。

「部長さんには若さと行動力があるじゃないですか、利点をうまく使うのもいい手ですよ」

パチン

その後、何度か指しあったあと、町屋が時間をみて帰宅時間なので帰ると申し出る。
千秋はそれを受理して、お疲れ様と言うと、

「別に疲れていませんがね。その言葉は塚本さんにかけてやって下さい」

あとひとりの調査資料部のメンバーである塚本穂積は、ひとり黙々とデータの打ち込みをしていた。

 町屋が帰ってから、ほどなくして終業時間となり、塚本と塩尻が先に帰って千秋と一色だけが残る。

「で、どうします。とりあえず」

「まあとりあえず町屋さんの言うとおりだね、actionしてみるわ。それから考えましょう」

それが4月の終わり、もうすぐGWになる頃の話だった。



 それから3週間あと、千秋は熊本に来ていた。

どうせ行くならと、他の部署からいくつかの頼まれごとを受け、それを携え大阪支社まで電車で行き、そこから救援物資とともに熊本支店までやってきたのだった。

物資の積み下ろしを手伝い、頼まれ事を片付けると、五坊野宅へ連絡を取る。
今は居ないが夕方には戻ってくると教えてもらい、土地勘のある地元の社員に軽トラで連れていってもらう。
そこはかなりの山奥で、その辺りの村はそこしかないと道々地元社員に教えてもらった。

 村に着き、五坊野宅を訪問すると、奥様が応対してくれて、今は畑にいるから呼んでくると外に出ていき、しばらくすると、鍬を担いだ白髪混じりの男と一緒に戻ってくる。

「いやあ、待たせたね。クルマで来たら早かったんだが、親父の帰りように置いてきたもんでな」

日に焼けて、四角い顔だけど面相は恵比寿顔、がっしりとした体型。面倒見のよさそうな親分みたい。

千秋の持った五坊野の第一印象はそんな感じだった。
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