佐野千秋 エクセリオン社のジャンヌダルクと呼ばれた女

藤井ことなり

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佐野千秋の休日 西南奔走

その3

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 そのままコーヒーか水をぶっかけそうになったので、千秋は覚悟をしたがやられずにすんだ。
そのかわり、愚痴が延々と続く。

「たまたまそうなってしまったが、時間があれば何とかなったんだ。そうだ私なら何とかできた。だがお前が余計な事をしたからこうなったんだ。お前が余計なことをしなかったら何とかなったんだ。

ホノカが傷ついて辞めたのも、五坊野さんが辞めたのも、会社を追われたのも、慰謝料を払うのも、飼い殺しの人生になったのも、みんなお前のせいだ。もらった給料から使い込みの分を天引きされて、毎月家のローンと慰謝料を払ったら、何も残らない。

服は支給された制服と今までの服の着回し、酒も呑めず食べ物も節約しなくてはやってけない、外食なんてやれるわけがない、コーヒー1杯飲めやしないんだぞ、みんなお前のせいだ、しかもだ!!」

一気に喋って喉が渇いたのか、ぬるくなったコーヒーを一気に飲み、乱暴にソーサーに置き話を続ける。

「紹介された会社は何もやる事が無い。手柄をたてて昇給する事はできない。なのにミスがあったら減給されるんだ。減給されたら支払いが滞る、それどころか払えなくなり、その分借金が増えるんだ。ミスが赦されないから毎日毎日緊張の連続なんだぞ」

 よほどストレスが溜まっていたのだろう、すべての不満をぶつけるように愚痴を言い続けた。それを千秋は黙って聴き続ける。



 サトウの愚痴は同じことを何度も何度もくり返し、2時間が過ぎようとしていた。
さすがに疲れたのか、もしくはいくらか不満がおさまったのか、どちらかは分からないが、ようやく落ち着いてきた。

「それで」

「はい」

「それでと訊いているんだ。五坊野さんから何を言預かってきたんだ」

ムスッとしながら訊くサトウに、千秋は落ち着きながら話す。

「気にするなと、私の力不足のせいだから気にするなと」

その言葉を聞いてサトウはまた頭に血が昇るが、今度は千秋も黙らなかった。

「五坊野さん、いい方ですね。課長の御家族には会いませんでしたが、常務のお使いでもあって、五坊野さんには会ってきました。私は皆さんから人となりを聞いて、一度お会いしたかったのもありましたし」

「……どんな様子だった」

「お元気でしたよ。御両親とともに畑仕事をしていました。日にも焼けていて健康そうでした」

「そうか、元気だったか」

「お時間をいただき、今回のことを謝罪してきました。我が身を守るためとはいえ、ご迷惑をかけて申し訳なかったと」

千秋はその時の事を思い出しながら話を続ける。
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