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佐野千秋の休日 西南奔走

その8

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 一色はそれを受け取ると、胸ポケットにしまう。

「マスターデータよ、あとはお願いね」

「了解です」

「それとこれ」

千秋は乗ってきたクルマのキーを渡す。同時に一色もトレーのウーロン茶と持ってきた2つのキーを渡した。

「201のキーと、その下に停めてあるクルマのキーです。宿泊料金でとってありますから、いつでも帰れますよ。それとウーロン茶はサービスです」

ありがとねと言いながら、千秋はそれらを受け取る。一色はペコリと頭を下げると、扉を閉めてスタッフルームに戻っていった。

 千秋がベッドに戻ると、ちょうど蛍もシャワーを終えて出てくるところだった。

「終わったの」

「うん、渡しておいたわ。これサービスだって」

「あら悪いわね。協力してもらった上にサービスだなんて、あんたここのオーナーとどういう関係なのよ」

「まあ色々とね。言っておくけど、いかがわしい関係じゃないからね。知り合いのつてなんだから」

「はいはい、キャンプ好きのパックパッカー仲間だっけ。顔の広い人だよね」

実際には一色の人脈なのだが、それを言うと蛍は会わせろとうるさいだろうから、内緒にしているのだった。
蛍の用意した服は、千秋が男装で蛍が一般的な女の服だった。

「なんであたしが男役なのよ」

「いいじゃんそっちの方がごまかせるでしょ」

そんな会話をしながら、蛍は髪を乾かし化粧をすませると、人妻風の服を着る。
四苦八苦しながら千秋もスーツを着ると、部屋を片付けて荷物を持ち、従業用通路から201へと移動する。

 誰も使用していない部屋を通り抜け、下の駐車場に降りると、用意してあるクルマに乗り込み出発する。

「泊まり料金だったら、もう少しゆっくりしてもよかったね」

「それじゃ万一の時に困るでしょ。この部屋はお昼から停めてあるんだから。明日の仕事を踏まえるんなら、今頃出ていくのが自然よ」

「ワケアリ不倫カップル風にしてみたからね。前かがみなら自然だし、それならジャケットで胸もかくせるもんね」

そういや、そんな理由で男装役をすすめられたんだっけと、千秋は思い出した。

 庄内川を越えて、インター近くまで来てようやく緊張がほどけてきた。

「……尾けてくるヤツは無しと」

「今日の服やなんやはどうするの」

「バラバラにリサイクルショップに売ってくるわ、このクルマも明日廃車になるモノだし」

「サクマはどこにも所属していないけど、念には念を入れておこう」

自分はともかく、協力してくれた人達に迷惑をかけたくない千秋の配慮だった。それを察したか、蛍かおどけた感じで言う。

「大丈夫よ、あたしが立てた計画が失敗したことある? 無いでしょ? あたしと千秋が組めばなんにも問題ないわよ」

いつぞやの言葉をそのまま返され、千秋は苦笑した。

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