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佐野千秋の休日 謎解き川柳(小川三水目線)
エピローグ
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それからしばらく千秋と野田くんは、昔話に花を咲かせていたが、私の存在に千秋が気がつくとふたりは連絡先を交換して、後日また会う約束をし私達は病院を後にした。
「ノヴァが差出人だったとはね」
「意外だったかい」
「うん、というか忘れていたくらいだもの。向こうはよくあたしが分かったわね」
「……そうだね」
妙な間を入れて返事してしまったため、千秋が感づいたらしい。詰問するようにこちらを見る。
「含みのある言い方ね、何かあるの」
「いや、別に」
「嘘おっしゃい。三ちゃん何か隠しているでしょ、言いなさいよ」
どうしょうか迷ったが、なるだけ気を付けて話すことにした。
「たぶんね、野田くん、千秋のことが好きだったんだよ」
「はあ? どっからそんな話になるのよ」
千秋は目をまるくした。やっぱり気づいてなかったか。
「千秋も野田くんも同じくらい会ってなかっただろう? それなのに偶々見かけただけの千秋に気づいた。千秋は今日、まじまじ見て気づいただろ」
うっ、と千秋は黙った。
「それと昔話の時、千秋は男子の中では特別な存在って言ってたろ? あれは自分にとって、の照れ隠しの言い方だと思うよ」
「そうなんだ……」
そのまま千秋は押し黙ってしまった。
ここまでにしておこう。さっき連絡先交換した時、千秋の今の勤め先と役職を見て、野田くんがショックを受けていた顔をしていた事は黙っていよう。
今の自分との差を知って、たぶん彼の恋は終わったんだろうな。
しばらく横並びで歩いた後、千秋がポツリと言った。
「今日はつき合ってくれて、ありがとう」
「ついて歩いてきただけだから、大したことしてないよ」
「ううん、三ちゃんのお陰で謎が解けたもの」
「最後、ハズしたけどな」
「大筋は、あってたじゃん」
千秋はニッコリとして言った。めずらしくも素直でしおらしい言い方だったので、不覚にもかわいいと思ってしまった。
「私も、ありがとう」
「なにが」
「さっき、ストーカーに間違われた話をしただろ。あの時、笑わなかったから」
「笑わないよ、笑う人なんかいるの」
「この話をすると、大抵の女性は嘲笑うな。情けないとか女だから当然じゃんとかね」
「あたしは笑わないわよ、気持ちわかるもの」
千秋もなにかしら誹謗とか中傷とかを受けたのだろうか、訊きたいが本人が言いたくなるまでやめておこうおこう。
ありがとうと、もう一度言った。
数日後、私はいつもの店、[ともしび]に来ていた。
あれから千秋には会っていない。いつも通り、ブランデーをロックスタイルで飲んでいると、顔見知りの常連さんが入ってきた。すると私の顔を見るなり訊いてくる。
「三ちゃん、クリーニング屋始めるんだって」
「は? なんで? やらないよ」
「そうなの? そんな話を聞いたからさ」
どこからそんな話がわいて出たのだろうと、常連さんに聞いてみた。
なんでも先週くらいに、私がビジネススーツ姿の女性と、ボックス席に移ったのを見た別の常連さんがいたらしい。
「二人でなんか深刻な顔して話をしていたけど、急に大きな声で[ショチョウ]とか[クリーニング]とか女性の声で聞こえて、その後、三ちゃんの声で[チアキ]って聞こえたんだって」
私はあんぐりとした。常連さんは話しを続ける。
「だから、あの女性は三ちゃんにクリーニング屋の所長になる勧誘をして、三ちゃんがチアキ町に出すならやると返事した、と言ってたよ」
あの時の会話か。その常連さんは、私を知っているけど、千秋を知らないんだな。
しかしそんな話になっているとは……
やはり女性と噂話の組み合わせは、私には相性が悪いらしい。
ため息をついて、私はグラスに残ったブランデーを飲みほした。
── 了 ──
「ノヴァが差出人だったとはね」
「意外だったかい」
「うん、というか忘れていたくらいだもの。向こうはよくあたしが分かったわね」
「……そうだね」
妙な間を入れて返事してしまったため、千秋が感づいたらしい。詰問するようにこちらを見る。
「含みのある言い方ね、何かあるの」
「いや、別に」
「嘘おっしゃい。三ちゃん何か隠しているでしょ、言いなさいよ」
どうしょうか迷ったが、なるだけ気を付けて話すことにした。
「たぶんね、野田くん、千秋のことが好きだったんだよ」
「はあ? どっからそんな話になるのよ」
千秋は目をまるくした。やっぱり気づいてなかったか。
「千秋も野田くんも同じくらい会ってなかっただろう? それなのに偶々見かけただけの千秋に気づいた。千秋は今日、まじまじ見て気づいただろ」
うっ、と千秋は黙った。
「それと昔話の時、千秋は男子の中では特別な存在って言ってたろ? あれは自分にとって、の照れ隠しの言い方だと思うよ」
「そうなんだ……」
そのまま千秋は押し黙ってしまった。
ここまでにしておこう。さっき連絡先交換した時、千秋の今の勤め先と役職を見て、野田くんがショックを受けていた顔をしていた事は黙っていよう。
今の自分との差を知って、たぶん彼の恋は終わったんだろうな。
しばらく横並びで歩いた後、千秋がポツリと言った。
「今日はつき合ってくれて、ありがとう」
「ついて歩いてきただけだから、大したことしてないよ」
「ううん、三ちゃんのお陰で謎が解けたもの」
「最後、ハズしたけどな」
「大筋は、あってたじゃん」
千秋はニッコリとして言った。めずらしくも素直でしおらしい言い方だったので、不覚にもかわいいと思ってしまった。
「私も、ありがとう」
「なにが」
「さっき、ストーカーに間違われた話をしただろ。あの時、笑わなかったから」
「笑わないよ、笑う人なんかいるの」
「この話をすると、大抵の女性は嘲笑うな。情けないとか女だから当然じゃんとかね」
「あたしは笑わないわよ、気持ちわかるもの」
千秋もなにかしら誹謗とか中傷とかを受けたのだろうか、訊きたいが本人が言いたくなるまでやめておこうおこう。
ありがとうと、もう一度言った。
数日後、私はいつもの店、[ともしび]に来ていた。
あれから千秋には会っていない。いつも通り、ブランデーをロックスタイルで飲んでいると、顔見知りの常連さんが入ってきた。すると私の顔を見るなり訊いてくる。
「三ちゃん、クリーニング屋始めるんだって」
「は? なんで? やらないよ」
「そうなの? そんな話を聞いたからさ」
どこからそんな話がわいて出たのだろうと、常連さんに聞いてみた。
なんでも先週くらいに、私がビジネススーツ姿の女性と、ボックス席に移ったのを見た別の常連さんがいたらしい。
「二人でなんか深刻な顔して話をしていたけど、急に大きな声で[ショチョウ]とか[クリーニング]とか女性の声で聞こえて、その後、三ちゃんの声で[チアキ]って聞こえたんだって」
私はあんぐりとした。常連さんは話しを続ける。
「だから、あの女性は三ちゃんにクリーニング屋の所長になる勧誘をして、三ちゃんがチアキ町に出すならやると返事した、と言ってたよ」
あの時の会話か。その常連さんは、私を知っているけど、千秋を知らないんだな。
しかしそんな話になっているとは……
やはり女性と噂話の組み合わせは、私には相性が悪いらしい。
ため息をついて、私はグラスに残ったブランデーを飲みほした。
── 了 ──
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