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佐野千秋の休日 謎解き川柳(小川三水目線)
ノヴァ
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30分後、近くの個人病院の待合室で、千秋はうなだれていた。抱きついてきた男は、千秋の背負い投げが見事に決まり、目をまわしてグッタリしてしまったので、ここに連れてきたのだった。
「あたし捕まっちゃうのかな」
珍しく弱気な発言をいう。
「相手がいきなり後ろから抱き締めたのを私が見てる、正当防衛が成立するから大丈夫だよ」
実際、見事な背負い投げだった。
相手の身体がキレイに弧を描いて、地面に叩きつけられたのを見たときは思わず、一本っ と、言いそうになった。
診察室の扉が開き、中から先生が出てきた。
「先生、どうでしょう?」
千秋が、心配そうに聞く。
「大丈夫ですよ、軽い脳震盪です。すぐ目を覚ましますよ」
千秋の顔に安堵の表情がうかんだ。よかったな。
「うちの看護士が柔道経験者で、たまたま見てたらしいんだけど、それはそれは見事な一本背負いだったらしいね」
先生が笑いながら言った。あれ、一本背負いなんだ。
「秀樹くんも、いいクスリになったろう」
「先生、彼を知っているんですか」
「近所の野田モータースの息子さんだよ、子供の頃から、よく知っているよ」
「野田……秀樹?」
千秋が問い返した。そして横になっている男の顔を覗きこみ、じーっと見つめた。
「ノヴァ?」
ノヴァ? なんだそりゃ? と、思ったとたん、千秋が男の鼻をつまみひねった。
「あんた、ノヴァかっ! 野田秀樹! おまえか!」
そのまま鼻をひねり潰しそうな勢いだったので、あわてて手を取りあげ、押さえつけた。
「千秋、やめなさい」
それでも千秋の興奮はおさまらない。
「起きんか、ノヴァ! お前か! お前が犯人か!」
犯人呼ばわりは言い過ぎだ。口も押さえようかと思ったところで、男が目を覚ました。
「ノヴァーーー!!!」
千秋の声が室内に響きわたった。
その声で目を覚ました野田くんは、最初はボーッとしていたが、千秋の剣幕に驚いてハッキリした。
そして、いきなり抱き着いたことを謝った。千秋もそれで落ち着いて、ようやく話が進んだ。かいつまんで言うと、こういう訳だった。
彼、つまり野田秀樹くんは、千秋の小学校時代のクラスメイトだった。
クラスで目立つ存在の千秋は、男子達の特別な存在だったらしく、皆、かまいたかったらしい。だから、クリムゾンごっこしている千秋達に戦いを挑んで、一緒にごっこ遊びをしていたそうだ。
その時、野田くんは野田のバイク屋ということで、ノバと呼ばれていたらしい。クリムゾン騎士のラスボスの名がノヴァだったので、ラスボス役ばかりやってたそうだ。
「あたし捕まっちゃうのかな」
珍しく弱気な発言をいう。
「相手がいきなり後ろから抱き締めたのを私が見てる、正当防衛が成立するから大丈夫だよ」
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診察室の扉が開き、中から先生が出てきた。
「先生、どうでしょう?」
千秋が、心配そうに聞く。
「大丈夫ですよ、軽い脳震盪です。すぐ目を覚ましますよ」
千秋の顔に安堵の表情がうかんだ。よかったな。
「うちの看護士が柔道経験者で、たまたま見てたらしいんだけど、それはそれは見事な一本背負いだったらしいね」
先生が笑いながら言った。あれ、一本背負いなんだ。
「秀樹くんも、いいクスリになったろう」
「先生、彼を知っているんですか」
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「野田……秀樹?」
千秋が問い返した。そして横になっている男の顔を覗きこみ、じーっと見つめた。
「ノヴァ?」
ノヴァ? なんだそりゃ? と、思ったとたん、千秋が男の鼻をつまみひねった。
「あんた、ノヴァかっ! 野田秀樹! おまえか!」
そのまま鼻をひねり潰しそうな勢いだったので、あわてて手を取りあげ、押さえつけた。
「千秋、やめなさい」
それでも千秋の興奮はおさまらない。
「起きんか、ノヴァ! お前か! お前が犯人か!」
犯人呼ばわりは言い過ぎだ。口も押さえようかと思ったところで、男が目を覚ました。
「ノヴァーーー!!!」
千秋の声が室内に響きわたった。
その声で目を覚ました野田くんは、最初はボーッとしていたが、千秋の剣幕に驚いてハッキリした。
そして、いきなり抱き着いたことを謝った。千秋もそれで落ち着いて、ようやく話が進んだ。かいつまんで言うと、こういう訳だった。
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