上 下
186 / 322
第1部

さよなら企画部

しおりを挟む
木曜日の朝、今日で本年度が終わる。

昨日は散々だったので、切り替えが大事とばかりに朝から熱いシャワーを浴びて、千秋は気分転換をはかっていた。

半狂乱で問い詰める蛍をなだめ、大金持ちの話を持ち出して下手に詮索しない方がよいと納得させた。
 それでもまだふてくされている蛍に、今回の報酬とは別で、何でもいうこときくからと約束して、ようやく機嫌を直してくれたのだった。

はてさて何を言ってくるやら、と思いながら出勤して企画部に行くと、そこには3課のシマが無くなっていた。

えっ、と千秋は思ったが、総務かビル管理かが、そうそうに片付けたのだと理解する。
ちらりと1課長を見るが、首を振るだけだった。
 ペコリと頭を下げると、新しい職場である資料課に向かう。

資料課の近くに来ると目に飛び込んできたのは、廊下に置かれたデスクの山だった。
3課のデスク5つ分が置かれている、どうやらこれの置場所を決めるのが最初の仕事らしい。
やれやれと思いながら室内に入ると、初老くらいの男性が2人すでに居た。

「おはようございます」

「おはようございます、失礼ですがどちら様で」

「今度こちらに来ることになりました佐野です。町屋さんと塩尻さんでしょうか」

「はい、よろしくお願いします。それとありがとう、感謝しています」

「いえ、私は何もしてませんから」

「まあそうなんだけど、正直助かったからね。私も塩尻くんも」

ああこの人が町屋さんで、昨日の人が塩尻さんなのか。

「塩尻くんは奥さんが病弱でね、毎日のように通院している。ここ数年はさらに弱くなったので彼が送り迎えしているんだ」

塩尻は、昨日は失礼して悪かったと謝った。

なるほど、奥さんのところに早く行きたかったから、つっけんどんな感じだったのか。

「私は、母親が介護が必要になってきてね、諸々の事情で私がやるしかなくて、早期退職するつもりだったんだよ。しかし君が上司として来てくれたから、出勤日数を減らして定年まで在籍することができる。おかげで退職金はほぼ満額もらえる事になったし、何よりも長年勤めた会社だからね、最後まで勤めたかったから本当に感謝している」

全部郷常務の仕業というか手柄なのに、自分に感謝されてむず痒くあった。

とりあえず、室内にデスクを入れなければならないのだが、3人ともそれほど力がある方ではないので、まずはお茶でも飲もうという運びになる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

君の残したミステリ

ふるは ゆう
キャラ文芸
〇〇のアヤが死んだ、突然の事ではなかった。以前から入退院を繰り返していて……から始まる六つの短編です。ミステリと言うよりは、それぞれのアヤとの関係性を楽しんでください。

晴明、異世界に転生する!

るう
ファンタジー
 穢れを祓うことができる一族として、帝国に認められているロルシー家。獣人や人妖を蔑視する人間界にあって、唯一爵位を賜った人妖一族だ。前世で最強人生を送ってきた安倍晴明は、このロルシー家、末の息子として生を受ける。成人の証である妖への転変もできず、未熟者の証明である灰色の髪のままの少年、それが安倍晴明の転生した姿だった。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

待合室

おりん
ライト文芸
うつで休職中。何とか復職したい。。そんな私に起きた心療内科の待合室での出来事。

あやかし妃は皇宮の闇を視る~稀代の瞳を持つ姫の受難~

昼から山猫
キャラ文芸
都が誇る美姫として名高い琉珠(るじゅ)は、人には見えぬあやかしを映す不思議な瞳を持っていた。幼い頃よりその力を隠し、周囲には「か弱い姫」として扱われてきたが、皇宮へ後妻として迎えられることになり、表舞台に立たざるを得なくなる。皇帝に即仕えることになった琉珠の瞳には、華やかな宮廷の片隅で蠢く妖や、誰も知らぬ陰謀の糸が絡み合う様がありありと映っていた。やがて、皇帝の信頼厚い侍衛長までもがあやかしの影を背負っていることを知り、琉珠の心は乱される。彼女が視る闇は、宮廷の権力争いだけでなく、あやかしの世界に潜む大きな謎へとつながっていくのだった。

【完結】星の海、月の船

BIRD
キャラ文芸
核戦争で人が住めなくなった地球。 人類は箱舟計画により、様々な植物や生物と共に7つのスペースコロニーに移住して生き残った。 宇宙飛行士の青年トオヤは、月の地下で発見された謎の遺跡調査の依頼を受ける。 遺跡の奥には1人の少年が眠る生命維持カプセルがあった。 何かに導かれるようにトオヤがカプセルに触れると、少年は目覚める。 それはトオヤにとって、長い旅の始まりでもあった。 宇宙飛行士の青年と異星人の少年が旅する物語、様々な文明の異星での冒険譚です。

処理中です...