佐野千秋 エクセリオン社のジャンヌダルクと呼ばれた女

藤井ことなり

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第1部

その10

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エレベーターで経理部の階に着くと、そこには塚本がいた。

「塚本さん、今帰り? 」

こくんと塚本が頷くと中に招き入れ、さっさと企画部の階に向かった。長居すると馬場に捕まってややこしくなるかも知れなかったからだ。

エレベーター内で2人きり。千秋は塚本と2人きりになるのは初めてかもと思い、話しかけようとしたが、さて何を、ではなくどんな風に話しかけようかに迷った。

一色くんはどうやってコミュニケーションをとっていたっけ、たしか表情と仕草とあと……

千秋はスマホを取り出すと、メモアプリを起動させ文字を打った。

[お疲れ様、経理部での人間関係大丈夫だった?]

それを塚本に見せると、塚本は自分のスマホを取り出し、同じくメモアプリで返事をした。

[気を使わせてすいません。一色くんがフォローしてくれているので、問題ありません]

おお、と千秋は少し感動した。塚本とコミュニケーションをまとも(?)にとれたからだ。

[仕事の方はどう? 間に合いそう?]

[大丈夫だと思います。2課の課長さんが部内を取り仕切って全体の流れが出来てますし、一色くんが潤滑油になって部内のストレスも少ない感じです。何もなければ明日の定時までには終わると思います]

すごいな、塚本さんってツールを使うとこんなに饒舌なんだ。

千秋は次の文を打とうとしたところで、塚本がスマホを見せる。

[あの、主任は普通に話してくれていいですよ]

「あ、そうか」

千秋はひたいを手の平でぺしんと叩く、それと同時にエレベーターは到着した。

企画部では、まだ殆んどの課員が残っていた。急な移動と人事で色々と振り回されているのだろう、千秋への視線が痛く刺さる。
郷は、それがどうしたと思えばいいというが、やはり気にはなった。塚本の荷物整理を手伝おうとしたが、彼女が断ったので黙って見ている事にした。

荷物をまとめ終わると2人がかりで運んだ。塚本だけに持たせる絵面を見せたくなかったのが半分あるが、実際にかなり重く本当に2人がかりでないと持てなかったからだ。

部屋を出て、エレベーターからの資料室まで行程を済ますと、千秋は鍵を取り出し開けて中に入る。
荷物を机の上に置き、ひと息ついた。

「ここが新しい職場よ」

自嘲気味の表情で、千秋は塚本にようこそのポーズをした。
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