上 下
173 / 322
第1部

その5

しおりを挟む
「正直、実務能力は全然戦力にならないけど、塚本とのコミュニケーションが出来るから、通訳程度で使えるだけかと思ってたの。
けどね一色のコミュニケーション能力はすごかったわ。
いつの間にか経理部全員の好みとか性格を把握して、それに合わせて気遣いして人間関係を円滑化してくれたの。
おかげでささくれだった部内が緩和されたわ」

一色のコミュニケーション能力高いと思っていたが、そこまでとは思ってなかった。

ああそうか、企画3課の環境では発揮しようがなかったからか。やっぱり一色くんはくすぶらせるのは勿体ないな、それにこの女、ちゃんと評価できるようね。

「それで塚本が定時に帰ることになったわ。約束だからしょうがないけど、またピリピリし始めてね、休憩の時に全員で夜食を食べに行った時に、一色がまた巧く話を回していい空気にしたの。それを見て思ったわ、塚本の実務と一色の気遣いがあれば経理部の作業率は上がるって。だから頂戴」

本音を引き出すために、あえて迷惑かけているだろうという言い方をしてみたが、どうやら本気で気に入ってくれているらしい。千秋は何となく誇らしい気持ちになった。

「だけど、女ばかりの環境に男ひとりだと何かともめませんか」

「あのコ、ゲイでしょ。大丈夫よ」

「え、なんで」

「夜食の時に恋バナの流れになって、自分から言ったわよ。年下の男の子の恋人がいるって」

ああ、オープンゲイだったわね、一色くん。

「それで、みんな一色のファンみたいになってね。その恋、応援するから教えてねって。ただの興味本位のくせに。とにかく男女のもめ事ができる心配は無いし、見た目もイケメンだし、人間関係も円滑化できる。あれは拾いモンよ、だから頂戴、あたしならうまく使えるから」

千秋は少し黙っていたが、やがて口をひらくと、

「最初にも言ったけど、今、私が決めれる話じゃないわ。その話は年度がかわってからあらためて話しましょ。それじゃ失礼するわ」

「ちょっと待ちなさいよ」

馬場のとめる声を後に、足早にその場を離れていった。歩きながら千秋は考える。

一色くんはやはり能力がある。偏見のせいでリストラ対象になってしまったけど、そんなことで潰したくない。
アメリカ研修に行くべきだ、そうすればまわりの見る目が変わるだろう。
となると私に関わっていると知られると、向こうでジェーン派に攻撃されるかもしれない。このまま関わらない方がいい。

千秋はそうしようと心を固めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

花束を咲良先生に(保育士)

未来教育花恋堂
キャラ文芸
キャラ文芸に書き換えました。

待つノ木カフェで心と顔にスマイルを

佐々森りろ
キャラ文芸
 祖父母の経営する喫茶店「待つノ木」  昔からの常連さんが集まる憩いの場所で、孫の松ノ木そよ葉にとっても小さな頃から毎日通う大好きな場所。  叶おばあちゃんはそよ葉にシュガーミルクを淹れてくれる時に「いつも心と顔にスマイルを」と言って、魔法みたいな一混ぜをしてくれる。  すると、自然と嫌なことも吹き飛んで笑顔になれたのだ。物静かで優しいマスターと元気いっぱいのおばあちゃんを慕って「待つノ木」へ来るお客は後を絶たない。  しかし、ある日突然おばあちゃんが倒れてしまって……  マスターであるおじいちゃんは意気消沈。このままでは「待つノ木」は閉店してしまうかもしれない。そう思っていたそよ葉は、お見舞いに行った病室で「待つノ木」の存続を約束してほしいと頼みこまれる。  しかしそれを懇願してきたのは、昏睡状態のおばあちゃんではなく、編みぐるみのウサギだった!!  人見知りなそよ葉が、大切な場所「待つノ木」の存続をかけて、ゆっくりと人との繋がりを築いていく、優しくて笑顔になれる物語。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

元虐げられ料理人は、帝都の大学食堂で謎を解く

逢汲彼方
キャラ文芸
 両親がおらず貧乏暮らしを余儀なくされている少女ココ。しかも弟妹はまだ幼く、ココは家計を支えるため、町の料理店で朝から晩まで必死に働いていた。  そんなある日、ココは、偶然町に来ていた医者に能力を見出され、その医者の紹介で帝都にある大学食堂で働くことになる。  大学では、一癖も二癖もある学生たちの悩みを解決し、食堂の収益を上げ、大学の一大イベント、ハロウィーンパーティでは一躍注目を集めることに。  そして気づけば、大学を揺るがす大きな事件に巻き込まれていたのだった。

あげは紅は ◯◯らしい

藤井ことなり
キャラ文芸
[紅あげは]は 私立聖真津洲留高校の2年生。 共働きの両親と年の離れた弟妹の面倒をみるために、家事に勤しむ毎日を送っていた。  平凡な毎日であったが最近学校ではちょっと変な事が流行っていた。 女の子同士がパンツを見せ合って勝負する [パンチラファイト] なぜか校内では女子達があちこちでスカートをめくりあっていた。 あげは はそれに全く興味が無く、参加してなかった為に、[はいてないのではないか]という噂が流れはじめる。 そのおかげで男子からスカートめくりのターゲットになってしまい、さらには思わぬアクシデントが起きたために、予想外の事件となってしまった。 面倒事に関わりたくないが、関わってしまったら、とっとと片付けたい性格のあげはは[パンチラファイト]を止めさせるために行動に出るのであった。 第4回キャラ文芸大賞参加作品

恋愛が運命を決めないとしたら平和かもしれない

三谷朱花
キャラ文芸
茜はある本を読みたいと思ったことをきっかけに前世の記憶が戻ってきて、この世界が茜の知っている前世の世界とは違うことに気付く。この世界は、恋愛の概念がない世界で、「好き」も「不倫」も「略奪愛」も存在しえない。だからその本も存在しない。前世の記憶を思い出したことから茜の平穏だった生活に変化も出てきて、茜の思わぬ方向に…。そんな中でもその本を読みたい茜と、周りの個性的な人々が織りなすお話。 ※アルファポリスのみの公開です。 ※毎日大体夜10時頃に公開します。早かったり遅かったりしますが、毎日します。

処理中です...