佐野千秋 エクセリオン社のジャンヌダルクと呼ばれた女

藤井ことなり

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第1部

その4

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「先日はたいへん失礼しました、これ、お詫びです。警備員さんにお渡ししてください」

席につくないなや、千秋は頭を下げながら菓子折りを手渡す。芝原は戸惑いながらも受けとる。

「佐野さんてお強いですけど、なにかやられていたんですか」

「ちょっと、合気道を小さい頃から……」

「ああ、それでですか。わかりました、彼等には彼女は武道の達人だったと伝えておきます」

「そんな達人だなんて」

「そうしておきましょう。大の大人が、しかもそれなりに訓練を受けた者が、3人もやられたんです。それなりの理由が無いと納得してくれませんから」

そう言われればそうかもしれないと思い、芝原の言葉に従うことにした。

 菓子折りを隣の椅子に置くと、料理をオーダーする。事前に千秋の好き嫌いを聞いてからの、おまかせランチコースを予約していた。

「ここはソムリエがいますから、本当はディナーの方が楽しめるんですよ」

「ワインが、お好きなんですか」

「ええ。まあ普段は焼酎かハイボールですけど」

そうこうしているうちに料理がやってきくる。美味しそうで尚且つなかなか豪華な料理だった。

ここって、ひょっとしてお高いんじゃないのかな。

千秋がふとそう思ったのがわかったのか、芝原が話す。

「丸の内、伏見間はビジネス街なんで色んなお店が多いんですよ。ビジネスマンのランチ用の店から接待用の店までね」

「ここは接待用ですよね」

「ええ、今日の料理はそれ用です」

「今回のコンペは接待されるような事はありませんと思いますけど、むしろこちらがする立場だと思いますが」

「そんなことないですよ、さ、冷めないうちに食べましょう」

芝原はカトラリーを手にすると、千秋に食事をうながす。いぶかしながらも千秋も手にすると、美味しそうな料理に手をつけた。
芝原はまだ料理を口にしていず、千秋が料理を口に入れるのを見届けてから、自分も口にした。
それに千秋が気づいたのは口の中のものを呑み込んだ後だった。

「芝原さん」

「はい」

「私の食習慣のひとつに、気持ち良く食べたいというのがあるんです。何かあるのなら先に言ってもらえませんか」

「今話すと料理が冷めますよ。食習慣に反するかもしれませんが、食べながら話します」

やっぱり何かあったのか。食べてしまった以上、聴くしかない。
いつもならもっと早く気づいたろうに、やっぱりまだ気が抜けているなと千秋は思った。
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