佐野千秋 エクセリオン社のジャンヌダルクと呼ばれた女

藤井ことなり

文字の大きさ
上 下
160 / 322
第1部

その2

しおりを挟む
千秋が帰途につき電車に揺られている頃、護邸はホテルの一室に入っていった。

「またせたかい」

部屋には女がひとりいた。

空のワイングラスを右手でもてあそびながら、退屈そうに長ソファーに寝るように座っている。
その傍らのテーブルには、赤ワインのボトルが置いてあった。

「酔っているのか」

護邸の言葉を聴こえないように、むすっとした顔でいる。
女は立ち上がると、バーガンディーのロングチャイナドレスをひるがえし、護邸に近寄りもたれかかるように抱きつき、護邸の首に自分の腕を蔦のように絡め、胸に顔を埋める。

護邸はキスをしようとするが、女はしない。なにかを確かめるように、護邸の身体中を触り匂う。

「なにもしてないよ、食事と会話だけだ」

「どうだか」

なにもない事にやっと納得すると、ようやくキスをした。護邸も女を抱きしめる。

唇を離すと、護邸は女を抱き上げベッドに向かう。

「シャワーが先か」

「このままでいいわ」

女は護邸の首に絡めた腕に力を込め、ベッドに引きずり込むように倒れ込んだ。



嫉妬深い女は激しいな

事後、満足そうな顔をしている女である、加納の髪を撫でながら護邸はそう思った。

「ねぇ、あの女と何を話したの」

「たいした話じゃない」

「嘘、だってミダスに連れていったんでしょ、何かあるに決まっているじゃない」

「それなら分かるだろ、言えない内容だって」

「なんなのあの女、なんでそんなに目をかけるのよ」

加納は起き上がると護邸に股がり、顔をして近づけ睨む。さて、どう誤魔化そうかと護邸は思案する。

「彼女はとある秘密を握っている、その内容は話せない。だが、肝心なのはそのお陰で、アメリカ本社がもめているという事なんだ」

「どういうこと」

「君は歴史は詳しい方かい」

「なによ急に、あんまり得意じゃないわ、中学生程度くらい」

「日本は、貴族社会と武家社会を経て、今の民主化になった訳だが、その民主化になるまで、政治組織が4つ失敗している」

「そうなの」

加納は興味無さそうに返事をする。

「失敗の原因はなんだと思う」

「トップが無能だからでしょ」

「はは、辛辣だな。まあそれだけじゃない、トップが政治闘争に夢中になり、本来の仕事を疎かにしたからだ」

「ふうん、それがどうしたの」

「だから跳ねっ返りの下の者が、楯突く。つまり下剋上というのが起きやすくなるんだ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く

gari@七柚カリン
キャラ文芸
☆たくさんの応援、ありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。  そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。  心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。  峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。  仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。  ※ 一話の文字数を1,000~2,000文字程度で区切っているため、話数は多くなっています。    一部、話の繋がりの関係で3,000文字前後の物もあります。

時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。 なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。 銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。 時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。 【概要】 主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。 現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。

御伽噺のその先へ

雪華
キャラ文芸
ほんの気まぐれと偶然だった。しかし、あるいは運命だったのかもしれない。 高校1年生の紗良のクラスには、他人に全く興味を示さない男子生徒がいた。 彼は美少年と呼ぶに相応しい容姿なのだが、言い寄る女子を片っ端から冷たく突き放し、「観賞用王子」と陰で囁かれている。 その王子が紗良に告げた。 「ねえ、俺と付き合ってよ」 言葉とは裏腹に彼の表情は険しい。 王子には、誰にも言えない秘密があった。

須加さんのお気に入り

月樹《つき》
キャラ文芸
執着系神様と平凡な生活をこよなく愛する神主見習いの女の子のお話。 丸岡瑠璃は京都の須加神社の宮司を務める祖母の跡を継ぐべく、大学の神道学科に通う女子大学生。幼少期のトラウマで、目立たない人生を歩もうとするが、生まれる前からストーカーの神様とオーラが見える系イケメンに巻き込まれ、平凡とは言えない日々を送る。何も無い日常が一番愛しい……

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

十番目の愛

夜宮 咲
キャラ文芸
財閥のトップに君臨する鏡月 零(かがつき れい)は、11人の養子がいた。その子たちは、迎え入れられた順に漢数字の名前が与えられていることから、またの名を"ゼロ"と呼ぶ。 十和(とわ)も養子のうちの一人であった。 憎み、妬み、愛、友情が巻き起こる鏡月家の物語。

【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。

紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。 アルファポリスのインセンティブの仕組み。 ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。 どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。 実際に新人賞に応募していくまでの過程。 春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)

護国神社の隣にある本屋はあやかし書店

井藤 美樹
キャラ文芸
【第四回キャラ文芸大賞 激励賞頂きました。ありがとうございますm(_ _)m】  真っ白なお城の隣にある護国神社と、小さな商店街を繋ぐ裏道から少し外れた場所に、一軒の小さな本屋があった。  今時珍しい木造の建物で、古本屋をちょっと大きくしたような、こじんまりとした本屋だ。  売り上げよりも、趣味で開けているような、そんな感じの本屋。  本屋の名前は【神楽書店】  その本屋には、何故か昔から色んな種類の本が集まってくる。普通の小説から、曰く付きの本まで。色々だ。  さぁ、今日も一冊の本が持ち込まれた。  十九歳になったばかりの神谷裕樹が、見えない相棒と居候している付喪神と共に、本に秘められた様々な想いに触れながら成長し、悪戦苦闘しながらも、頑張って本屋を切り盛りしていく物語。

処理中です...