143 / 322
第1部
その3
しおりを挟む
音もなくウェイターがワゴンとともに部屋に入り、ワインの入ったワインクーラーとグラスを2つ持ってくる。
「白のワインが好みだったね。今日の料理は白ワインに合わせたコースにしてあるから、楽しんでくれたまえ」
護邸はにこやかに話す、千秋はこんな表情の護邸を見るのが初めてだったので、さらに困惑する。さすがにたまりかねて詰問するように訊く、
「常務、いったいどういうつもりなんです。本当の目的はなんなのです」
千秋の様子に、護邸は楽しそうにこたえる。
「少し芝居がかっていたかな、順を追って説明するよ。このミダスという店は秘密クラブでもあってね、会員以外は場所も存在も知られないようになっている。それ故あのようなかたちで来てもらった」
「秘密クラブですか」
「メンバーはどのような方がいるか、私も知らない。知っているのは、私をここに紹介してくれた方だけだ」
「何故そのようなところに私を」
「ここに連れてくるのは、その人を信用できる人だけでね。秘密を漏らしたり、この店の存在を話さないと信じられる人だけを連れてくるんだ。ちなみに君がそれを外部に漏らしたら、連座制で私と私を紹介してくれた方も退会させられる」
つまり、それくらい護邸は千秋を信用していると言いたいらしい。それはそれで千秋は困惑するのだが。
「しかし、言っては何ですが、それくらいでは秘密は守られないでしょう。何かの拍子についポロリと言ってはしまいませんか」
「それは料理を食べたらわかるよ」
護邸は合図すると、ウェイターによりカトラリーと皿がテーブルの上に並べられ、料理を運びこまれた。
「3種の野菜によるテリーヌでございます」
赤黄緑の三色がタイル状になっているテリーヌがそれぞれの皿に鎮座された。どうやらフレンチのコース料理のようだ。
ウェイターの後にソムリエが続き、ワインを抜栓して2人のワイングラスに注ぐ、淡い黄金色がグラスに満たされる。
護邸が自分のグラスをとると、続いて千秋も自分のをとる。
「とりあえず、コンペの成功に」
ぶつけずに、掲げるだけの乾杯をすると護邸はグラスを口につけた。護邸が飲んだのを見てから千秋も飲む。それを見た護邸はくすりと笑う。
「用心深いんだな」
「上司より先に飲まないだけです」
千秋はそう言ったが、本当はワインになにか入っていないかの用心だった。しかし、そんな疑いも吹っ飛んだ。
なんて美味しいワインなのかしら、こんな美味しいのはじめて……
千秋は自分の警戒心が綻びはじめるのを気づかないでいた。
「白のワインが好みだったね。今日の料理は白ワインに合わせたコースにしてあるから、楽しんでくれたまえ」
護邸はにこやかに話す、千秋はこんな表情の護邸を見るのが初めてだったので、さらに困惑する。さすがにたまりかねて詰問するように訊く、
「常務、いったいどういうつもりなんです。本当の目的はなんなのです」
千秋の様子に、護邸は楽しそうにこたえる。
「少し芝居がかっていたかな、順を追って説明するよ。このミダスという店は秘密クラブでもあってね、会員以外は場所も存在も知られないようになっている。それ故あのようなかたちで来てもらった」
「秘密クラブですか」
「メンバーはどのような方がいるか、私も知らない。知っているのは、私をここに紹介してくれた方だけだ」
「何故そのようなところに私を」
「ここに連れてくるのは、その人を信用できる人だけでね。秘密を漏らしたり、この店の存在を話さないと信じられる人だけを連れてくるんだ。ちなみに君がそれを外部に漏らしたら、連座制で私と私を紹介してくれた方も退会させられる」
つまり、それくらい護邸は千秋を信用していると言いたいらしい。それはそれで千秋は困惑するのだが。
「しかし、言っては何ですが、それくらいでは秘密は守られないでしょう。何かの拍子についポロリと言ってはしまいませんか」
「それは料理を食べたらわかるよ」
護邸は合図すると、ウェイターによりカトラリーと皿がテーブルの上に並べられ、料理を運びこまれた。
「3種の野菜によるテリーヌでございます」
赤黄緑の三色がタイル状になっているテリーヌがそれぞれの皿に鎮座された。どうやらフレンチのコース料理のようだ。
ウェイターの後にソムリエが続き、ワインを抜栓して2人のワイングラスに注ぐ、淡い黄金色がグラスに満たされる。
護邸が自分のグラスをとると、続いて千秋も自分のをとる。
「とりあえず、コンペの成功に」
ぶつけずに、掲げるだけの乾杯をすると護邸はグラスを口につけた。護邸が飲んだのを見てから千秋も飲む。それを見た護邸はくすりと笑う。
「用心深いんだな」
「上司より先に飲まないだけです」
千秋はそう言ったが、本当はワインになにか入っていないかの用心だった。しかし、そんな疑いも吹っ飛んだ。
なんて美味しいワインなのかしら、こんな美味しいのはじめて……
千秋は自分の警戒心が綻びはじめるのを気づかないでいた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない
めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」
村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。
戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。
穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。
夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
『イケメンイスラエル大使館員と古代ユダヤの「アーク探し」の5日間の某国特殊部隊相手の大激戦!なっちゃん恋愛小説シリーズ第1弾!』
あらお☆ひろ
キャラ文芸
「なつ&陽菜コンビ」にニコニコ商店街・ニコニコプロレスのメンバーが再集結の第1弾!
もちろん、「なっちゃん」の恋愛小説シリーズ第1弾でもあります!
ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。
稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。
もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。
今作の主人公は「夏子」?
淡路島イザナギ神社で知り合ったイケメン大使館員の「MK」も加わり10人の旅が始まる。
ホテルの庭で偶然拾った二つの「古代ユダヤ支族の紋章の入った指輪」をきっかけに、古来ユダヤの巫女と化した夏子は「部屋荒らし」、「ひったくり」そして「追跡」と謎の外人に追われる!
古代ユダヤの支族が日本に持ち込んだとされる「ソロモンの秘宝」と「アーク(聖櫃)」に入れられた「三種の神器」の隠し場所を夏子のお告げと客観的歴史事実を基に淡路、徳島、京都、長野、能登、伊勢とアークの追跡が始まる。
もちろん最後はお決まりの「ドンパチ」の格闘戦!
アークと夏子とMKの恋の行方をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください!
では、よろひこー (⋈◍>◡<◍)。✧♡!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
九戸墨攻
不来方久遠
キャラ文芸
三日月の円くなるまで広しと言われた陸奥領の南部氏は、本家の三戸を中心に一戸・二
戸と続き、九戸まで九つの戸に分かれて統治されていた。後に北の鬼と怖れられる事にな
る九戸政実は、若気の至りから柿を盗み、罰として寺に預けられていた。そこで、元は武
士であった住職の薩天和尚によって、文武両道を叩き込まれた。
30歳、魔法使いになりました。
本見りん
キャラ文芸
30歳の誕生日に酔って帰った鞍馬花凛。
『30歳で魔法使い』という都市伝説を思い出した花凛が魔法を唱えると……。
そして世間では『30歳直前の独身』が何者かに襲われる通り魔事件が多発していた。
そんな時会社での揉め事があり実家に帰った花凛は、本家当主から思わぬ事実を知らされる……。
ゆっくり更新です。
皇帝の寵妃は謎解きよりも料理がしたい〜小料理屋を営んでいたら妃に命じられて溺愛されています〜
空岡
キャラ文芸
後宮×契約結婚×溺愛×料理×ミステリー
町の外れには、絶品のカリーを出す小料理屋がある。
小料理屋を営む月花は、世界各国を回って料理を学び、さらに絶対味覚がある。しかも、月花の味覚は無味無臭の毒すらわかるという特別なものだった。
月花はひょんなことから皇帝に出会い、それを理由に美人の位をさずけられる。
後宮にあがった月花だが、
「なに、そう構えるな。形だけの皇后だ。ソナタが毒の謎を解いた暁には、廃妃にして、そっと逃がす」
皇帝はどうやら、皇帝の生誕の宴で起きた、毒の事件を月花に解き明かして欲しいらしく――
飾りの妃からやがて皇后へ。しかし、飾りのはずが、どうも皇帝は月花を溺愛しているようで――?
これは、月花と皇帝の、食をめぐる謎解きの物語だ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる