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第1部

その3

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音もなくウェイターがワゴンとともに部屋に入り、ワインの入ったワインクーラーとグラスを2つ持ってくる。

「白のワインが好みだったね。今日の料理は白ワインに合わせたコースにしてあるから、楽しんでくれたまえ」

護邸はにこやかに話す、千秋はこんな表情の護邸を見るのが初めてだったので、さらに困惑する。さすがにたまりかねて詰問するように訊く、

「常務、いったいどういうつもりなんです。本当の目的はなんなのです」

千秋の様子に、護邸は楽しそうにこたえる。

「少し芝居がかっていたかな、順を追って説明するよ。このミダスという店は秘密クラブでもあってね、会員以外は場所も存在も知られないようになっている。それ故あのようなかたちで来てもらった」

「秘密クラブですか」

「メンバーはどのような方がいるか、私も知らない。知っているのは、私をここに紹介してくれた方だけだ」

「何故そのようなところに私を」

「ここに連れてくるのは、その人を信用できる人だけでね。秘密を漏らしたり、この店の存在を話さないと信じられる人だけを連れてくるんだ。ちなみに君がそれを外部に漏らしたら、連座制で私と私を紹介してくれた方も退会させられる」

つまり、それくらい護邸は千秋を信用していると言いたいらしい。それはそれで千秋は困惑するのだが。

「しかし、言っては何ですが、それくらいでは秘密は守られないでしょう。何かの拍子についポロリと言ってはしまいませんか」

「それは料理を食べたらわかるよ」

護邸は合図すると、ウェイターによりカトラリーと皿がテーブルの上に並べられ、料理を運びこまれた。

「3種の野菜によるテリーヌでございます」

赤黄緑の三色がタイル状になっているテリーヌがそれぞれの皿に鎮座された。どうやらフレンチのコース料理のようだ。

ウェイターの後にソムリエが続き、ワインを抜栓して2人のワイングラスに注ぐ、淡い黄金色がグラスに満たされる。

護邸が自分のグラスをとると、続いて千秋も自分のをとる。

「とりあえず、コンペの成功に」

ぶつけずに、掲げるだけの乾杯をすると護邸はグラスを口につけた。護邸が飲んだのを見てから千秋も飲む。それを見た護邸はくすりと笑う。

「用心深いんだな」

「上司より先に飲まないだけです」

千秋はそう言ったが、本当はワインになにか入っていないかの用心だった。しかし、そんな疑いも吹っ飛んだ。

なんて美味しいワインなのかしら、こんな美味しいのはじめて……

千秋は自分の警戒心が綻びはじめるのを気づかないでいた。
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