134 / 322
第1部
その4
しおりを挟む
深夜番組を観ながら時間を潰していると、23時半に蛍がやって来た。
「お待たせ」
「早かったわね、ちゃんと片付けたの」
「年度末のせいかな、会員さん少なかったから、失礼のないように少しずつ片付けて、早目に終われたわ」
蛍は仕事着のジャージを脱ぐと、部屋着に着替えて席についた。
「ではあらためて、コンペ成功おめでとう、かんぱーい」
蛍の音頭で唱和し、杯を合わせ、千秋は白ワイン、ハジメはノンアルのビール、蛍は缶チューハイの桃味をそれぞれ飲んだ。
「あらためてありがとうね。2人がいなかったら駄目だったと思う、本当にありがとう」
「なーに言っているのよ、気にしない気にしない」
「こっちとしては逃してたヤツを逮捕出来たからね、むしろ有り難いくらいよ」
学生の時ならともかく、もう社会人になった以上それぞれの生活があるのに、自分の頼みをきいてくれた事に、千秋は心底感謝した。
祖母の料理をツマミに銘々に飲み食いしていたが、少し酔いがまわってきたようで、口が滑らかになってきた。
「あ、それでハジメは何があったの。今日は来れなさそうって言ったじゃない」
蛍の言葉に、ハジメは杯を置き崩した足を正すと、真面目な口調で報告する。
「小山元、今度の事で異動となり、新年度より愛知県警《本部》勤めとなります」
「おお、栄転じゃん」
「栄転というより、厄介払いなのよね。今回の事であたしの事がニュースになっているのよ」
「ああ、見た見た。[あのハジメちゃんの今]とか[ハジメちゃんが婦警になってた]とかなってたね」
「だから壱ノ宮署に人だかりが出来ているのよ、あたし見たさにね。おかげで仕事が滞っちゃってね、お前がいるとかえって邪魔だ、って言われて定時で帰されたの」
「ごめん、あたしのせいだね」
「気にしないで。実は以前から本部には呼ばれてはいたのよ」
「なんで」
「全国柔道大会要員としてね。でもあたしは現場でいたかったし、それに……」
「おばあちゃんね」
「……うん」
ハジメの両親は、彼女が幼いときに他界している。その彼女を育てたのが祖父母なのだ。
今は官舎に住んでいるが、時間をつくっては祖父母のところに顔を出す、おじいちゃん子おばあちゃん子なのであった。
「でも名古屋なら近いし、たぶん内勤になると思うから、今までどおり顔を出せると思うわ」
「うん、でもやっぱり責任感じるなぁ」
落ち込む千秋にハジメが、問いかける。
「じゃあさ、これ貰っていいかな」
そう言って紙袋からマフラーを取り出した。
「そ、それって」
サトウが目印の為に千秋に渡した、あのマフラーだ。
「カッコいいじゃん、これ。ね、貰っていい」
白黒抹茶小豆珈琲柚子桜の7色グラデーションに、銀のスパンコールをあしらえたデザインに、ハジメは嬉しそうに聞く。
それでいいならと、千秋は快く進呈した。
「お待たせ」
「早かったわね、ちゃんと片付けたの」
「年度末のせいかな、会員さん少なかったから、失礼のないように少しずつ片付けて、早目に終われたわ」
蛍は仕事着のジャージを脱ぐと、部屋着に着替えて席についた。
「ではあらためて、コンペ成功おめでとう、かんぱーい」
蛍の音頭で唱和し、杯を合わせ、千秋は白ワイン、ハジメはノンアルのビール、蛍は缶チューハイの桃味をそれぞれ飲んだ。
「あらためてありがとうね。2人がいなかったら駄目だったと思う、本当にありがとう」
「なーに言っているのよ、気にしない気にしない」
「こっちとしては逃してたヤツを逮捕出来たからね、むしろ有り難いくらいよ」
学生の時ならともかく、もう社会人になった以上それぞれの生活があるのに、自分の頼みをきいてくれた事に、千秋は心底感謝した。
祖母の料理をツマミに銘々に飲み食いしていたが、少し酔いがまわってきたようで、口が滑らかになってきた。
「あ、それでハジメは何があったの。今日は来れなさそうって言ったじゃない」
蛍の言葉に、ハジメは杯を置き崩した足を正すと、真面目な口調で報告する。
「小山元、今度の事で異動となり、新年度より愛知県警《本部》勤めとなります」
「おお、栄転じゃん」
「栄転というより、厄介払いなのよね。今回の事であたしの事がニュースになっているのよ」
「ああ、見た見た。[あのハジメちゃんの今]とか[ハジメちゃんが婦警になってた]とかなってたね」
「だから壱ノ宮署に人だかりが出来ているのよ、あたし見たさにね。おかげで仕事が滞っちゃってね、お前がいるとかえって邪魔だ、って言われて定時で帰されたの」
「ごめん、あたしのせいだね」
「気にしないで。実は以前から本部には呼ばれてはいたのよ」
「なんで」
「全国柔道大会要員としてね。でもあたしは現場でいたかったし、それに……」
「おばあちゃんね」
「……うん」
ハジメの両親は、彼女が幼いときに他界している。その彼女を育てたのが祖父母なのだ。
今は官舎に住んでいるが、時間をつくっては祖父母のところに顔を出す、おじいちゃん子おばあちゃん子なのであった。
「でも名古屋なら近いし、たぶん内勤になると思うから、今までどおり顔を出せると思うわ」
「うん、でもやっぱり責任感じるなぁ」
落ち込む千秋にハジメが、問いかける。
「じゃあさ、これ貰っていいかな」
そう言って紙袋からマフラーを取り出した。
「そ、それって」
サトウが目印の為に千秋に渡した、あのマフラーだ。
「カッコいいじゃん、これ。ね、貰っていい」
白黒抹茶小豆珈琲柚子桜の7色グラデーションに、銀のスパンコールをあしらえたデザインに、ハジメは嬉しそうに聞く。
それでいいならと、千秋は快く進呈した。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
待つノ木カフェで心と顔にスマイルを
佐々森りろ
キャラ文芸
祖父母の経営する喫茶店「待つノ木」
昔からの常連さんが集まる憩いの場所で、孫の松ノ木そよ葉にとっても小さな頃から毎日通う大好きな場所。
叶おばあちゃんはそよ葉にシュガーミルクを淹れてくれる時に「いつも心と顔にスマイルを」と言って、魔法みたいな一混ぜをしてくれる。
すると、自然と嫌なことも吹き飛んで笑顔になれたのだ。物静かで優しいマスターと元気いっぱいのおばあちゃんを慕って「待つノ木」へ来るお客は後を絶たない。
しかし、ある日突然おばあちゃんが倒れてしまって……
マスターであるおじいちゃんは意気消沈。このままでは「待つノ木」は閉店してしまうかもしれない。そう思っていたそよ葉は、お見舞いに行った病室で「待つノ木」の存続を約束してほしいと頼みこまれる。
しかしそれを懇願してきたのは、昏睡状態のおばあちゃんではなく、編みぐるみのウサギだった!!
人見知りなそよ葉が、大切な場所「待つノ木」の存続をかけて、ゆっくりと人との繋がりを築いていく、優しくて笑顔になれる物語。
恋愛が運命を決めないとしたら平和かもしれない
三谷朱花
キャラ文芸
茜はある本を読みたいと思ったことをきっかけに前世の記憶が戻ってきて、この世界が茜の知っている前世の世界とは違うことに気付く。この世界は、恋愛の概念がない世界で、「好き」も「不倫」も「略奪愛」も存在しえない。だからその本も存在しない。前世の記憶を思い出したことから茜の平穏だった生活に変化も出てきて、茜の思わぬ方向に…。そんな中でもその本を読みたい茜と、周りの個性的な人々が織りなすお話。
※アルファポリスのみの公開です。
※毎日大体夜10時頃に公開します。早かったり遅かったりしますが、毎日します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる