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第1部

その4

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深夜番組を観ながら時間を潰していると、23時半に蛍がやって来た。

「お待たせ」

「早かったわね、ちゃんと片付けたの」

「年度末のせいかな、会員さん少なかったから、失礼のないように少しずつ片付けて、早目に終われたわ」

蛍は仕事着のジャージを脱ぐと、部屋着に着替えて席についた。

「ではあらためて、コンペ成功おめでとう、かんぱーい」

蛍の音頭で唱和し、杯を合わせ、千秋は白ワイン、ハジメはノンアルのビール、蛍は缶チューハイの桃味をそれぞれ飲んだ。

「あらためてありがとうね。2人がいなかったら駄目だったと思う、本当にありがとう」

「なーに言っているのよ、気にしない気にしない」

「こっちとしては逃してたヤツを逮捕出来たからね、むしろ有り難いくらいよ」

学生の時ならともかく、もう社会人になった以上それぞれの生活があるのに、自分の頼みをきいてくれた事に、千秋は心底感謝した。
  祖母の料理をツマミに銘々に飲み食いしていたが、少し酔いがまわってきたようで、口が滑らかになってきた。

「あ、それでハジメは何があったの。今日は来れなさそうって言ったじゃない」

蛍の言葉に、ハジメは杯を置き崩した足を正すと、真面目な口調で報告する。

「小山元、今度の事で異動となり、新年度より愛知県警《本部》勤めとなります」

「おお、栄転じゃん」

「栄転というより、厄介払いなのよね。今回の事であたしの事がニュースになっているのよ」

「ああ、見た見た。[あのハジメちゃんの今]とか[ハジメちゃんが婦警になってた]とかなってたね」

「だから壱ノ宮署に人だかりが出来ているのよ、あたし見たさにね。おかげで仕事が滞っちゃってね、お前がいるとかえって邪魔だ、って言われて定時で帰されたの」

「ごめん、あたしのせいだね」

「気にしないで。実は以前から本部には呼ばれてはいたのよ」

「なんで」

「全国柔道大会要員としてね。でもあたしは現場でいたかったし、それに……」

「おばあちゃんね」

「……うん」

ハジメの両親は、彼女が幼いときに他界している。その彼女を育てたのが祖父母なのだ。
今は官舎に住んでいるが、時間をつくっては祖父母のところに顔を出す、おじいちゃん子おばあちゃん子なのであった。

「でも名古屋なら近いし、たぶん内勤になると思うから、今までどおり顔を出せると思うわ」

「うん、でもやっぱり責任感じるなぁ」

落ち込む千秋にハジメが、問いかける。

「じゃあさ、これ貰っていいかな」

そう言って紙袋からマフラーを取り出した。

「そ、それって」

サトウが目印の為に千秋に渡した、あのマフラーだ。

「カッコいいじゃん、これ。ね、貰っていい」

白黒抹茶小豆珈琲柚子桜の7色グラデーションに、銀のスパンコールをあしらえたデザインに、ハジメは嬉しそうに聞く。

それでいいならと、千秋は快く進呈した。

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