佐野千秋 エクセリオン社のジャンヌダルクと呼ばれた女

藤井ことなり

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第1部

その2

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「群春物産は東京が本社で当社の東京支店としのぎを削っている間柄です、葉栗副社長ならそれを見逃しません」

「確かにな、群春は自らの負い目があるから言わないだろうが、他社は関係無い。平社員に脅される管理職がいるならと、なめられて契約を取られるかもしれない。そうなれば、こちらに責任をとれと言ってくるだろうな」

先程あらかじめやっていたディスカッションと同じ流れが、目の前で繰り広げられている。
なるほど、ああいう事は必要だな。おかげでこちらに心の余裕ができる。機会があれば私も取り入れよう、そう千秋は思った。

「まったく何なんだ、このキジマって奴等は。集団暴行に恐喝だなんて、どうかしてるぞ」

早田専務が憤慨して言う、その通りだと千秋も思う。

自分が迷惑かけられていたから気がつかなかったけど、キジマ達が関わらなければ少なくともスズキさんは平穏に暮らしていけただろうに。あ、でもサトウ課長は関係無いか、仕事できないのはキジマ達とは関係無いもんね、私にしたって横領の濡れ衣を着せられなかった筈だわ。 

「ただ退職させるだけでは駄目ならどうする」

「肝心なのは、他社の平社員に当社の管理職が脅されていたという点でしょう。これが他社にナメられるポイントです」

「カネを脅されずに渡すという事にできないかね、キジマとやらとサトウが仲間という事にしてだな」

「サトウは何とかなるにしても、キジマ達にはどう説明するんだ」

「ストックホルム症候群というのがあるだろう、ああなってしまったというのはどうだ」

「それでは更に印象が悪くなります」

「サトウが、だろう。あくまでもうちは被害者だ」

「横領され続けたというのはどうします、あの無能にですよ」

だんだん言葉がぞんざいになってきたな。
早田専務と郷常務の会話を聞いて千秋はそう思った。

この2人はどうやら仲が好いというより親密といった方がいい関係のようだ。

「こういうのはどうでしょうか」

護邸常務が話に割り込んだ。

「何かあるのかね」

「美談にしてしまうのです」

「美談だと」

「サトウ課長はスズキを守る為にあえて汚名を被る行動として横領していた。という話です」

護邸の言葉に千秋はぎょっとする、まさか常務は知っているのか。

「このキジマというヤツは過去に別の犯罪を犯しています。スズキさんはその被害者で」

やっぱり知っている、駄目、それは言わないで。千秋は目で護邸にそう訴えかけるが、その願いはかなわなかった。

「スズキさんは過去にキジマ達にレイプされてます」

護邸は淡々と言葉にした。
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