佐野千秋 エクセリオン社のジャンヌダルクと呼ばれた女

藤井ことなり

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第1部

その6

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「最初は自分の貯金から出していたんですが、あっという間に無くなって、ローンに手をつけ、それでも足りないから、いけないとは思いつつも会社のおカネを……」

「スズキさん、訊きにくいことを訊くけど、そのあいだに、その、……」

「いいえ、なぜか身体を要求されることはありませんでした。それは本当です」

スズキは千秋に、というよりサトウに向かって言葉強くこたえた。

「そう、わかったわ」

おそらくキジマ達は東京から来たばかりで、目立つ事をしたくなかったのだろうと千秋は思った。
だが事実はさらに酷い。
キジマ達はカネを搾り取るだけ取ったら、身体を要求し動画を撮り、それを配信してまた稼ぐつもりだったのだ。

スズキは、キジマ達の脅迫とローンの催促にくわえさらに決算期が近づいていたので、心労で発作をおこしてしまったのだ。

「どのくらい脅されていたの」

「1年くらい……」

千秋はサトウを張り倒したい衝動にかられた。

なんで1年も気づかないんだ、好きあって身体も重ねた間柄なのに、そんなのも気づかないなんて、どこまで鈍感なんだと。

グッとこらえて、続きを問いただす。

「脅された事を知った私は警察に届けるつもりだった、だがショウコが嫌がったんだ」

「動画はコピーされて5人とも持っていて、何かあったらすぐに配信されるようになっていると言われて……」

「とりあえず決算期を乗り越えるため、私が会社の分カネの穴埋めをして、ショウコ名義のローンを私に借り換えた」

「で、それらを今度は課長が接待費などの経費として、さらに穴埋めしたという訳ですか」

年度末の道路工事じゃあるまいし、穴埋めばかりしてなんになる。結局、根本のキジマ達への対策は何もしなかったのか。

「もちろん、彼等にも私は説得しに行ったよ」

「で、逆に不倫の関係を知られて脅迫のネタを提供したんでしょ」

「う……」

まさしくミイラ取りがミイラにだなと千秋は思った。

「それが、私が企画3課にくる前の出来事だったんですね」

「……そうだ」

背景は解った。その後のコンペは偶然だろう、金づるがスパイの役にも立ったのだ、キジマ達は有頂天になっていたか、それとももうほとぼりが冷めたかと思ったか、それで千秋を襲うという暴挙に出たのだろう。

と、なると……

「課長、私に横領の罪を被せようとしたのは、誰からの指示だったんです」

千秋の質問にサトウの顔は強ばった。
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