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第1部

2頭の山羊

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サトウ課長の自らの告白に、会議室の空気が変わった。

「サトウ課長、横領を認めるんだね」

護邸常務が念を押すように訊ねる。

「はい、ギャンブルにはまってしまい、いけないとは思いつつも会社のカネを使ってしまいました」

千秋は、えっという顔になる。

どういうつもり何だろう、本当はキジマ達に脅されてカネを渡していたのに、何でその事を言わないんだろう。不倫をネタに脅されていたことを隠したいのだろうか。それならそれで納得できるのだが、何かしっくりこない。

「それを何故、佐野主任のせいにしたのかね」

「帰国子女で、まだ日本支社に慣れていないから分からないだろうと思ってました」

「君がやったことに間違いないんだね」

護邸の言葉を遮り、竹ノ原専務がサトウ課長に訊いた。課長は黙って頷いた。

「護邸常務、これは君の監督不行き届きではないのかね。2年近くも、2千500万もの横領を見抜けなかった、気付かなかったのだからな」

「そうだそうだ、これは護邸常務にも責がある」

竹ノ原専務の言葉に、諸星専務が追い打ちをする。

「確かに私の不注意です。それは認めます。ですが、これは彼ひとりでできる事ではありません」

「何を言い訳を」

「わが社の経理は優秀です、横領を2年近くも見過ごす筈はありません。そうですよね大鳥常務」

大鳥常務は急に話を振られて吃驚するが、その通りだと答える。

「彼ひとりでは出来ない、経理は優秀だから見過ごさない、なのに2年近くも横領は続いた。何故でしょう」

護邸は一呼吸おき、役員の顔を見回して言葉を続けた。

「経理に共犯がいないと出来ない、いや、共犯がいたからこそ2年近くも発覚しなかったのです」

千秋は、ハッとした。まさか護邸常務は知っている?

「出てきたまえ」

護邸の言葉に、控室からひとりの女性社員が護邸の秘書に連れられて出てくる。

見覚えのある顔だった。蛍のスポーツジムで、課長とのツーショット画像で、何度も見た彼女だった。

千秋達の座っているパイプ椅子の席まで連れられて来ると、席に座らずそのまま立って待つ。

秘書が一礼をして控室に下がるのを待ち、護邸は女性社員に声をかけた。

「経理課のスズキショウコさんだね」

女性社員は、コクンと頷いた。

「君がサトウ課長の横領を手伝った、そうだね」

硬直したまま無反応であったが、やがて小さな声で、はい、と答えた。

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