佐野千秋 エクセリオン社のジャンヌダルクと呼ばれた女

藤井ことなり

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第1部

その2

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まだ切り札を出さないんだ。

千秋は護邸を見ながら、そう思った時だった。

「護邸常務、君の言う通り僭越だろう。専務の諸星くんが進めようとしているのに、何故滞らせようとするのだ。君は会議を何だと思っているんだ」

鋭く厳しい口調で、竹ノ原専務が咎める。

それを皮切りに、会議は紛糾した。

竹ノ原専務の言葉を早田専務がさえぎり
早田専務の言葉を葉栗副社長が応え
それを中島社長が応対して郷常務と北斗常務が同調し
その流れを万城目専務が混ぜ返し、日狩専務が突っ込む
それに怒った大鳥常務が声をあらげると、諸星専務が止め、丹羽副社長がなだめる

当事者である筈の千秋はおいてけぼりで、重役が互いに攻撃しあっている。

隣の課長は言葉のひとつひとつに反応し、青くなったりホッとしたりして忙しかったが、千秋はただただ眺めていただけだった。

どうやら派閥的なものは3つあるらしい。

中島社長派の早田専務、郷常務、北斗常務、護邸常務。

葉栗副社長派の竹ノ原専務、諸星専務、大鳥常務。

丹羽副社長派の万城目専務、日狩専務。

残りのひとり東常務は、どこかはまだ分からない。黙って会議の行く末を見守っているのだろうか。

世界的な大会社の重役達が、喧々諤々としている。というとすごく感じるのだが、そういうのを取っ払うと子供の口喧嘩にちかい。
そのうちに
「お前のかーちゃん、でーべーそー」
とか言いそうな空気になってきた。

「議長」

ずっと黙っていた、東常務が手を挙げ発言をもとめる。

「東常務、どうぞ」

「お腹が空きました、休憩して昼飯にしませんか」

挙手をしながら、他の重役達ににこやかに話しかける。一番若手らしい常務の屈託の無い顔と言葉に、毒気が抜けたのか、会議は沈静化した。

「ふむ、そうだな。少し冷静さを欠いていたようだ。仕切り直す意味も兼ねて、食事にしよう。では30分後にまた集合」

社長の言葉に皆が同意し、とりあえず解散となる。

置いてきぼりになっていた千秋と課長も退出するが、さてどうしよう状態であった。

とりあえず千秋は課長に文句を言おうとしたが、すでに雲隠れしたあとで姿が見えない。

時刻を確認すると12時10分を過ぎたところだった。

どうしようかと思っていると、秘書に着いてくるように言われ、着いていくと社長室に着いた。

中に入ると、千秋が思った社長派が揃っていた。

「佐野主任、君は何にする」
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