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第1部

その3

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カロイト学園、聞いたことあるけどなんだったかわからない。母に目をむけるが首を振るだけだった。

祖母がお茶をひと口飲むと、言葉を続けた。

「魁山先生が孤児だったのは知ってるかい」

「知らない」

「まあそうだろうね、以前ね魁山先生のインタビューがあった時に、孤児だったことを全面に出して御涙頂戴の記事が出た事があるの。それに怒った先生は、あまり言わなくなったからね」

「それと何が関係あるの」

「カロイト学園というのは、まあ昔の孤児院の事でね。魁山先生はそこで育ったの。そういう事があったから魁山先生は身寄りの無い子を積極的に引き取ってね、今は財団グループのひとつであるカロイト学園で育てているの」

「あ、わかった。財団の社員にはカロイト学園出身の人がいるのね」

「そう、物心ついた時から魁山流の教育を受けた子達、つまり財団内の優良選民《エリート》がね」

「つまり見えないヒエラルキーってのは」

「中途採用とカロイト学園出身と、たぶん新卒の人の力関係ってことなんだろうね」

「ジュンキンとナリキンみたいなものね」

名古屋にある、とある学校を例えに母はこたえた。

「それよりは警察のキャリア、ノンキャリアの方が近いかな。学園の子達はリーダーシップがとれるように教育されるから」

「じゃあ将来の幹部候補生」

「そりゃ腰も低くなるわ」

千秋は何となくみえてきたが、まだ確証は持てなかった。

「一色君に聞いてみるかな」

母《咲子》の耳がピクピク動き、目がキランと光った。

「誰よ、一色君て」

「私の味方」

「イケメン?  」

「イケメン、イケメン、あれはモテるわね」

オトコにだけど、とは声には出さない。

「いくつくらい?  どこに勤めているの?  年収は? 
持ち家?  長男?  ご両親は何をやっているの?  やさしい?   」

「咲子、何ですか矢継ぎ早に、それでは千秋が答えられないじゃないの。ねえ千秋。それでその方の御身分は?  生まれはどちら?  身体は丈夫な方?  」

祖母と母が代わる代わる問い詰めてくるのに圧倒されかけるが、そんな関係じゃないと言い捨てて、千秋は自分の部屋に逃げ出す。

部屋に入ると、充電中のスマホに着信ランプが点滅していた。手に取り確認すると、一色からだった。

少しだけ、ドキリとした。
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