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第1部

その2

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  そんな事になっているとは知らずに、千秋は帰宅して服を脱ぎ散らかすと、ベッドに潜り込んだ。
仲の良い友達の家もいいが、やはり自宅がいちばん落ち着くと思いながら、布団の中でもぞもぞとする。


目が覚めたのは、夕方というよりは夜に近い時間だった。
短い時間だったが深く眠れたので、かなり疲れがとれたと感じた。
スマホをとり、時間を確認しようとしたが、その前に着信があることに気づく。ノブと一色からだった。

先に着信があったのがノブだったので、ノブにまず連絡をいれる。

「もしもし、ノブ?  今電話しててもいい?  」

「あ、姐さん、うまくいったみたいですね。ネットニュースに流れているっすよ」

そうなんだ、あとでチェックしよう。

「ノブのお陰よ、ありがとう。そうだ、お礼を兼ねて落ち着いたらノブのお店に行くわ。私、白ワイン好きだから用意しといてね」

「姐さん、嬉しいんすけど今店をたたんでいる最中なんすよ」

「え、な、なんで」

「もともと3月いっぱいで閉めるつもりだったんす。だからキジマやリンチョウのスマホに盗聴アプリ入れてたんす」

「どういう意味」

「連中のアプリを削除出来ないんすよ。だからとばしのスマホで盗聴してたんす。ほぼここでやってたんで発信をたどられて、警察がそのうち来るんで、その前に消えようと思って」

「ええ!  」

「あ、姐さんのスマホに中継したのも、そのスマホなんで、もう処分しました。なので姐さんは安心してくださいっす」

屈託のない言い方で千秋は混乱した。自分から舎弟にしてくれと言いながら、今度は姿を消そうとしているのだ。

「ノブ、もう私に会う気無いの」

「そんな事無いっすよ、ただちょっと名古屋を離れるだけっす」

「どこに行くの、何をするつもりなの」

「なんも決めて無いっす、テキトーにやるっす」

このコなりに私に気を使っているんだな、と千秋は理解した。ならば素直に送り出してやろうと決めた。

「ねえノブ、何も決めていないんなら、あんた探偵にならない」

「タンテーっすか、ルパンとかニジュウメンソウとか」

「はんたいよ、それは泥棒の方でしょ。ホームズとか明智小五郎とかでしょ。あんたの情報収集力と行動力は探偵に向いているわ、それにそうなれば私はあんたに頼りやすくなるの。どう、ならない?  」

「考えたこと無いっすねえ」

「そう?  無理は言わないけど、なったら教えに来てね。ありがとうね」

千秋は通話を切った。

これでいい、会えないとなると何をどうするか分からない。だが、探偵になったら連絡してねと聞いた以上、ノブは探偵にならないと私に会えないと受けとるだろう。となると探偵になる道を選ぶはず、探偵になれば[社会的に通用する肩書き]が手に入る。ノブに社会に対する根が張り、危うさが減る。

「舎弟の面倒をみるのが姐御の役目だものね」
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