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第1部

その3

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  一方、こちらの連中は美味しくないサケをガブ飲みしていた。

「なんなんだよ、あの女!!  ほぼ確実にこっちの勝ちだったんだぜ、なのにあの女のせいで、またプレゼンだよ!  やっと東京に戻れると思ったのによぉ」

  ボックス席に陣取った、グループのリーダーらしいのが、ウィスキーの薄い水割りをあおりながら喚き、他の4人が、同調しながら同じ水割りを飲んでいる。

  名古屋の繁華街の外れにある、老朽化したビルの4階の一室は、カフェバーと看板にはあるが、怪しげなスナックと表現した方が似合っている。

  そんな外見だからふつうなら入り難いが、密談や怪しげな相談をしたい連中は、そうでもないらしい。チャラそうな若いバーテンダーがひとりで、カウンターの中でつまらなそうにグラスを拭いていた。

「一週間後ってことは、来週の月曜か。なんか手はあるのか」

リーダーの問いかけに、4人はだんまりとする。
もともと仕事ができなくて、リーダーに胡麻をすってやってきただけの連中であるので、何も思いつかないらしい。

  リーダーは、むすっとした顔で、少し濃くした水割りをあおった。

 2時間が過ぎたが、なにも意見の出ないままであった。飲み続けてた水割りは、ほとんどストレートと言っていいほど濃くなって、全員ほぼ泥酔状態となっている。
そんな中、ひとりがボソッと呟いた。

「ようは、あの女がいなきゃいいんじゃないですか」

「……あれをやるのか」

「そうっすよ、あの女がでしゃばらなきゃ決まってたんです、あの女がいなきゃいいんすよ」

「だが名古屋にとばされた理由を忘れるなよ、こっちでやってバレたらさすがに不味いぞ」

「ポイポイ先輩、覚えています?  先輩、こっちに住んでいるんすよ」

「ポイセンの野郎がなんで名古屋にいるんだよ」

「あの人地元コッチなんすよ、この前たまたま会っちまって、おごらされたんす」

「俺のことは言ってないだろうな」

「そりゃもちろん、アイツに一流会社に勤めているなんてバレたら、たかられますからね。オレひとりで就活してるって言っときました」

「ふん、つまりポイセンを使って、あの女をやっちまえば、今のまんまでプレゼン勝てるって訳だな」

「どうっすか」

「よしやれ、ただしバレるなよ。裏がバレたら今度はアイツがジャマになるからな」

「うっす」

仕事は出来ないけど、こういうよからぬ事は考えついて、さらに行動力もあるらしい。

泥酔の彼等は、まだ何もやってないのに祝杯をあげたのだった。
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