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ふるさとの海は有り難き哉 2
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「その必要は無いですよ。私の判断でお貸ししたので」
畑中君は寒風の中、もうもうと息を吐きながら静かに微笑んでいる。
「私の方はむしろ頼っていただいてよかったと思っているので、お気になさらず。迷ってる人を救いの道に導くのも仏弟子の大事な役目なのですが、葬儀屋に人生相談をしに来てくれる人なんて、滅多にいませんからね」
さすが畑中君、人間力高過ぎ……
「そうだ。会社のホームページ相談コーナー作ろうかな」
「でも何でその人、こんな寒い時に北海道に行こうとしてるんだろう?実家に帰るとか?」
「いいえ、そうではないようでした。言葉の感じから関東出身の人ではないかと思うのですが、詳しくは……」
父と叔父も代わる代わる(畑中君の通訳つきで)「地元の人が先祖代々の墓地を管理するための大切な小屋であり、無断使用した水道が凍結して破裂したり、火の元の始末がいい加減で火事になったりしたら大変である」旨を青年に話して聞かせ、
「寒さが桁違いの北海道で同じ様な野宿旅をしたら命に関わる」
「金に困っているのならしばらくここで海産物加工場のバイトでもしたらどうだ」
という忠告と助け舟を出したのだが、旅を続けたいという青年の意思は固かった。
「自殺志願者じゃないといいけどね、その人」
何となくずっと気にはなっていたが言いづらかったことを、咲恵ちゃんははっきりと言う。
「まさか。畑中君だって、お金踏み倒したり自殺したりしない人だと思ったから、お金貸したんでしょ?」
「そんなのわかりませんよ」
畑中君は私のフォローをいともあっさり否定した。
「僧侶だろうがなかろうが、人が本当は何を考えてるかなんてそうそうわかるものじゃないです」
そりゃそうだけど……
「ただ、坊主に金を借りてまで自ら死を選ぶなんて、たいへん罰当たりな事だくらいは思ってて欲しいですけどね」
なるほど。
謎の若者が厳寒の北海道に渡ろうとしている理由が、夢とか憧れとか人生の目標とか……偏見かもしれないが、そんな楽観的なキラキラしたもののようにはあまり思えない。
好意に解釈して人生を見直すためとか、生きる術を探すための旅か。
大枚叩いて損した(かもしれない)畑中君には申し訳ないのだが、あまり「善い事をした」というスッキリ感はなく、「これでよかったのかなあ」というモヤモヤ感だけが残る。
本線や幹線でもない地方路線の、駅からも離れた地元の人しか存在を知らないような山中の物置小屋に、一体どうやってたどり着いたのかも少し気になるし。
ともあれその日のうちに叔父が他の役員に事情を説明して回り、例の物置小屋に鍵を取り付ける事が決まったという事だけは聞いた。
ところで私達が今いるのは、白い岩と砂浜からその名がついた高名な景勝地・浄土ヶ浜でも家族の思い出の詰まった町営海水浴場でもない。
隣村の隠れた絶景スポットで、数キロもの弧を描いて松林と砂浜の海岸が続く。全体的に岩と岩の隙間に漁港や砂浜ならぬ砂利浜が点在する三陸海岸にしては珍しい景色が広がっている。
畑中君は寒風の中、もうもうと息を吐きながら静かに微笑んでいる。
「私の方はむしろ頼っていただいてよかったと思っているので、お気になさらず。迷ってる人を救いの道に導くのも仏弟子の大事な役目なのですが、葬儀屋に人生相談をしに来てくれる人なんて、滅多にいませんからね」
さすが畑中君、人間力高過ぎ……
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「でも何でその人、こんな寒い時に北海道に行こうとしてるんだろう?実家に帰るとか?」
「いいえ、そうではないようでした。言葉の感じから関東出身の人ではないかと思うのですが、詳しくは……」
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「寒さが桁違いの北海道で同じ様な野宿旅をしたら命に関わる」
「金に困っているのならしばらくここで海産物加工場のバイトでもしたらどうだ」
という忠告と助け舟を出したのだが、旅を続けたいという青年の意思は固かった。
「自殺志願者じゃないといいけどね、その人」
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「まさか。畑中君だって、お金踏み倒したり自殺したりしない人だと思ったから、お金貸したんでしょ?」
「そんなのわかりませんよ」
畑中君は私のフォローをいともあっさり否定した。
「僧侶だろうがなかろうが、人が本当は何を考えてるかなんてそうそうわかるものじゃないです」
そりゃそうだけど……
「ただ、坊主に金を借りてまで自ら死を選ぶなんて、たいへん罰当たりな事だくらいは思ってて欲しいですけどね」
なるほど。
謎の若者が厳寒の北海道に渡ろうとしている理由が、夢とか憧れとか人生の目標とか……偏見かもしれないが、そんな楽観的なキラキラしたもののようにはあまり思えない。
好意に解釈して人生を見直すためとか、生きる術を探すための旅か。
大枚叩いて損した(かもしれない)畑中君には申し訳ないのだが、あまり「善い事をした」というスッキリ感はなく、「これでよかったのかなあ」というモヤモヤ感だけが残る。
本線や幹線でもない地方路線の、駅からも離れた地元の人しか存在を知らないような山中の物置小屋に、一体どうやってたどり着いたのかも少し気になるし。
ともあれその日のうちに叔父が他の役員に事情を説明して回り、例の物置小屋に鍵を取り付ける事が決まったという事だけは聞いた。
ところで私達が今いるのは、白い岩と砂浜からその名がついた高名な景勝地・浄土ヶ浜でも家族の思い出の詰まった町営海水浴場でもない。
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