ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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翌朝は墓参り 2〜戦争が終わって〜

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 傾きかけた午後の日差しが照りつける中、気が早いのか対抗心かミンミンゼミに混じるヒグラシの声を聞きながら仕方なく、暇に飽かせて古そうな墓石の裏の故人名と行年を読みながらふらふらと歩いていた。晃夫が何をしていたかは覚えていないがおおかた、クワガタか里に降りる前の赤トンボでも探していたのかもしれない。

 幼い叔父叔母と同時代、同世代で亡くなった子ども、今より短い天寿を全うした年寄りーー若者は戦時中の最後の数年に亡くなった人が多かった。その頃は市日に町に行くと、松葉杖をつきくたびれた軍服を着た老傷病兵が通りの片隅で、空き缶をぶら下げながら軍歌を歌っていた。そこからざっと三十年も遡ると日本はまだ戦争をしていたのだ。
 両親が生まれたのが敗戦の数年前なので、その当時はとてつもない昔のことのような気がしていたが。

 その頃は初七日も日にち通りにやっていたのだろう。死が身近だった分、遺族側も参列者側も遥かに忙しく時間も費やしただろうがそれを厭わなかった。
 死生観とか宗教的思想、あるいは虚礼とかしがらみとかーー科学の力で寿命も伸びた現代の我々は「コスパ」だ「時短」だと御題目を唱えながら、先人が「チリも積もれば……」で費やした膨大な時間分、一体何を得て何に向き合っているのだろう。

 収入?生き甲斐?幸福?持続可能な未来?



「おはようございます。晴れて良がったなす」

 近所に住むさっこ叔母夫婦が線香を手に、しっかりとした足取りで雪の斜面を登ってきた。少ししてから、本家の伯父とゆり子夫婦も合流した。
 この地方の人は本当に義理堅く朝にも強い。

「ああどうも、朝早くからありがとうございます。何もかんもまぁで何もかも本当にお世話さなって……」

 父は嬉しそうに礼を言い、私達も頭を下げた。

 長年この土地に住んでいる両親だが、自分の家で葬式を出すなど人生でそう何度もあることではない。二十年以上前に曾祖母の葬式を出してはいるが、時代が変われば協力してくれる人も限られてくるし、全部が全部昔通りにできるわけでもない。

 コーディネーター役の畑中君は最大公約数的なことはわかるけれども、集落や菩提寺ごとに細かくある決まりごと、葬式行列における順序や受付のコート問題のようにはんちゆう範疇はんちゅう外の事も意外と多い。
 父と母が特に頼りにしていたのが昨年、自宅でお姑さんの葬式を出したさっこ叔母夫婦だった。
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