ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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翌朝は墓参り 1〜昭和のお盆の光景〜

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 次の朝は数日ぶりにゆっくりした朝を迎えた。

 とは言っても働き者のみっこ伯母もまだいるし、私自身も否応なく子育て中の早起き癖がついてしまっている上、元々八時過ぎまで寝床にいたりするとまるで国賊かなにかのように父に罵られて叩き起こされるような実家なので朝六時起床が七時になったくらいのものだが。

 晃夫は忌引きと有給が明けて今日から出勤だ。近い親族は葬儀後もさらに三日間、毎朝墓参りをするのが慣習だという。

 私と颯也は「明日の朝帰るなら今朝だけでも行け」と言われ、母と伯母に朝食作りを任せて父の軽トラに乗って出かけた。昨日の雪空とうって変わっていい天気で墓地の駐車場まですんなり着いた。
 つい昨日、墓地の進入路で四苦八苦しながら肝を冷やしたのがフィクションの中の出来事のようだ。

 共有林の杉の木に囲まれ、朝の光にキラキラ輝く斜面をろうそくと線香を手にした父と颯也と三人、長靴で踏み締めて登っていく。あった事のないお祖父ちゃんや幼い叔父叔母と一緒にお祖母ちゃんの眠る場所からは、松の木越しにーー今の季節はさすがに海までは無理だがーー町の景色がよく見える。 


 この辺りに限らずだと思うのだが、故郷では七夕もお盆も八月の旧暦だ。盆の間は毎日、なるべく家族揃って欠かさず墓参りをする。送り盆の朝には共同墓地を利用する世帯から一人ずつ出て、墓参りの後にゴミ捨て場の片付けや墓地周辺の清掃をする。家では長年、父の担当だ。

 お盆の墓参りの際には、自分の家だけではなく親戚はもちろん、近所のつき合いのある家の墓もセットで拝む。近距離の共同墓地という事情もあるだろうが、実家の場合は何だかんだ十数軒(基?柱?家?)くらいは回っていたのではないか。祖母が健脚だった頃は父と二人で手分けしてーーと書くと、何だか営業のノルマのようだが。
 家の墓参りの前や後に、祖母と父とでそれぞれ一束ずつ線香を持って回っては「◯◯さんは、はあ拝んでもう家族で墓参りして帰ったふうでようだ」だとか「誰それが拝みに来て行き会った」などと何でもない報告をし合っていた。

 母と先に帰ることもあれば、母が忙しくて墓参りに来られない日は子ども達だけで家に帰っていいと放免されることもあった。
「◯◯さん拝むだけだすけ、ちょっと待ってろえ」なんて言われる事もある。

 そんな時、待ち時間が暇だからと晃と二人で通路でふざけていたーーら、もちろん目玉が飛び出るほど怒られる。
 過疎の山集落ではあったが、第二次ベビーブーム直後で小さな子ども達があちらこちらにそこそこいた。にも関わらず、墓石の列を縦横に走る長い通路で鬼ごっこをするような子どもは一人もいなかったーー当然と言えば当然なのだが、家族に限らず雷を落とす大人がそこここに健在で、睨みを利かせていた時代でもあったからか。
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