ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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八戸のデパートの思い出 1

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 もう一度、豊に電話を代わってもらい、

「さっきはごめんね、ありがとう」

 と伝える。

「うん。え、ごめんって何が」

 ……こたえてないならいいか。

 この頃は固定電話から携帯電話に掛けると料金が割高だった。かれこれ20分近く話してるし、咲恵ちゃんもそろそろ家に帰っているだろう。

「夜だから雪道の運転、気をつけてね」

 とだけ伝えて電話を切り、今度は咲恵ちゃんの携帯に掛けて帰りを一日伸ばしたことを伝えた。咲恵ちゃんは早速、「どこに行く?」と張り切っている。

「運転しながら色々考えてたんだけど、微妙にオフシーズンなんだよねえ……夏休みとか冬休みなら観光客相手に店も施設も開いてるんだけど。鉱物資料館とかふるさと水族館なら開いてるけど、夏にも行ったんでしょ?」

 咲恵ちゃんは「ふるさと振興ナントカ事業」を駆使して町が完成させた、悲願の二大教育文化施設の名を挙げた。これと「道の駅」が三大観光稼ぎ頭だ。施設も比較的新しく綺麗で、採算のほどは知らないが企画力や品揃え、接客ぶりもよく帰省の家族連れ中心に賑わうなかなかの健闘ぶりだ。

「そうだけど、そこでもいいよ。季節で違う企画展やってるらしいし、空いてる館内をゆっくり回るのも……」

「それとも私の車で八戸にでも行ってみる?」

「八戸!懐かしいなぁ。子どもの頃、デパートに連れてってもらった以来だよ」

 実家の町にはデパートと映画館が無い。いや、映画館の方は何度か開業しては潰れてを繰り返していただけだし、ロータリーを挟んだ駅の真向かいに一応「駅前デパート」と名づけられた商業ビルがあるにはあるが、私が子どもの頃から既に寂れた雰囲気が漂っていた。
 それでも昭和の頃はまだ正味二階分のテナントがちゃんと入っていて、少し成長した十代半の頃になるとレコード屋や電気屋にはちょくちょくお世話になったのだが、いわゆる世間一般の「デパート」にカウントした事はない。 
 食堂や婦人服店も入っていた記憶があるが、子どもにとってはおもちゃ売り場が無い時点で論外だった。

 八戸道開通前の旧国道を車で一時間半、いや、お父さん運転だからもう少しかかっていたのかもしれないが。古くから漁業と商業、交通の要として栄えた隣県の大都市、八戸市は深く広大な北上山地を越えなければ辿り着けない県庁所在地の盛岡よりも、身近な大都市だった。
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