ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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昔、母の家出について行ったらこうなった 1

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 母は裏表のない穏やかな人で波風を立てることを好まないが、気が強く癖の強い祖母がより若かった時にはもっと手を焼いたようだ。

 両親は仕事、祖母は農業と私達の子守を担い、家庭ではだいたい平和な時間が流れていたが時々祖母の思いこみからくる一方的な悪態で時々嵐が起きる。祖母の悪態はスイッチが入ると自動的に再生される呪詛の定形分のようなもので、論理的に説いてやめさせられる類のものではなかった。

「親一人子一人のどごさ嫁さ行ぐもんでねえ、って言うども、ほに本当にそうだ」

 母の堪忍袋の緒が切れて夫婦喧嘩にまで飛び火すると、母は父に向かってよくそう叫んでいた。

 母にしてみれば、祖母の畑仕事を手伝わないまでも子育てと家事のほぼ全般を担って、祖母にも気を遣いながら接している。
 しかし祖母の側はーー自分がそうであったようにーー嫁は畑仕事をするものだと思い込んでいるからそもそもが気に入らない。もし母が畑仕事をする人だったとしても、それはそれで争いが絶えなかったとは思うが。

 時々、そんな大騒動の後で唐突に

「本町の伯父さんの家に遊びに行くよ」

 などと言われる。
本町の家は昔からの古い市街地にある。
 夫婦で教員をしていた伯父の家はその頃新しく建て替えたばかりで、庭こそ狭かったが家には無い洋間の応接間や板の間の子ども部屋がありーーそれこそクララのおばあ様の部屋ではないがーー熱帯魚やピアノ、綺麗な絵本やヨーロッパの玩具など珍しい物や楽しい物がたくさんあった。
 なにより歳の近いいとこ達と遊べるのが楽しみで、幼児の私達は深く考える事なく大喜びで母に同行した。

 母は通勤用の自転車に私達の着替えの荷物と小さな晃夫を乗せ、歩く私の歩調に合わせながら押す。目の前の土手の上の線路を、二両編成のオレンジのキハ車両が夕陽に照らされながらゴトゴトと走って行く。

「おかあさん、でんしゃ!」

「電車でねえの、あれは汽車」

「汽車?ふぅーん?」

 赤字ローカル線のディーゼルカーしか見た事がない幼児には電車と汽車の区別は難しい。

 いつもの日常の延長で駅と駅を行き来する人、駅で乗り換えてもっと遠くの別な場所に旅する人ーー一瞬、車窓に見えたそんな人達を見送りながら、若き日の母が何を思っていたのかも。
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