ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

文字の大きさ
上 下
122 / 151

初七日済んで、日が暮れて

しおりを挟む
 咲恵ちゃんが本家の酔っ払いの回収……もとい、従兄弟おじ達の迎えに来た。長内さんが最終のバスと新幹線で盛岡に帰ると言うので、ついでに駅まで回ってくれると言う。

長内さんは数十年前に脱サラし、盛岡郊外で農園を営んでいるのだと言う。長年、三陸の海が見えるお墓にいたご先祖様は今、岩手山のよく見える陽当たりのいい丘で、子孫達の生業を見守りながら眠っている。
 ふるさとの山を遠景に「Born to Be Wild」をBGMにしながら、トラクターを駆る長内さんの姿がなんとなく浮かんだ。

「いい時期に一度、ご家族で遊びにいらっしゃい」

「はい。ぜひ」

 私は喜んで答えた。父や晃夫、や颯也も招待されていたから、今年の夏は長内農園争奪戦になるかもしれない。早めに計画を立てないと。

 それはそうと、咲恵ちゃんとも一緒にご飯くらい食べたかったな。

 お礼かたがた、少し残念な気持ちでそう話したら、

「しーちゃんこそ、せっかく来たのに本当に明日帰っちゃうの?一日くらいどこか遊びに行かない?私も明日休みだし」

 と返された。そうか、咲恵ちゃん休みなのかあ。

「そうしたいんだけどさ……夫と二男が向こうで待ってるんだよね」

「ああそうか……まあ、夫さんはどうでもいいとして」

 いいんかいっ(笑)まあ、そうだけど。

 実は事後の作業があった時のために、明後日帰る予定で仕事のシフトを調整してあるし、夫と悠也、義母にもそう言ってある。
 だが、義母一人に実質何もかも任せきりなのが心配で、明日にでも帰ろうかと思っていたところだ。
 これがもし逆で滞在を延期した場合、悠也を納得させるのに骨が折れるだろうし、本人にも無駄に気の毒な思いをさせてしまう。だがサプライズ的に早く帰る分には問題ないだろうと思っていたのだが。

 咲恵ちゃんは「せっかく会えたのになあ」と、心底残念そうに言った。

「しーちゃん、昔から真面目だけどさ。気晴らしだって必要だよ?こんな時だから仕方ないけど、颯也君だって家にばかりいるよりはいいと思う」

 私自身、このまま実家に戻ったらブッツリ切れてワンワン泣いちゃうんじゃないか、北関東の自宅に戻ったら燃え尽きててサラサラと灰になってしまうんじゃないか……と確信できるくらいには疲れ果てていた。
 幸いどこでもぐっすり眠れる質だし、一晩寝て起きたら案外回復するのかもしれないけど。
 家に帰れば帰ったで、まず悠也のフォローに仕事や当番関係の穴埋め、義母が手が回らず豊に先送りされた家事ーーそれこそ夫は後回しで(笑)ーーと、こちらで過ごした日々にも増して大忙しになるだろう。
 できれば心がカサついてオイル切れのままエンジンを空吹かしさせ続けるんじゃなくて、一旦どこかでリセットしたい。私の中の生存本能がそう叫んでいる。それこそ何にも考えず、咲恵ちゃんと昔話でもしながらケタケタ笑い合えたら……心はそちらにググっと動くんだけど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...