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葬式行列 3〜バスも命懸け!?〜
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「赤過ぎるったって、それしか持ってないんでしょ」
「そうだども……」
「もう出発だしどうしようもないじゃない。私のだってこんな真っ青だし『親子揃って常識ないね』ってお祖母ちゃんに呆れてもらうしかないよ」
母はぷっと噴き出すと「いやほに、あんたって子は……呆れたもんだ」と自分のことを棚に上げてさっさとバスに乗り込んでしまった。
娘が娘なら母も母だが、母のしなやかさと辛抱強さも私に遺伝していたらいいのに。
バスに乗り込んで周りを見わたせば、見た目も中身も昭和の雷親父然とした父や従伯父達、見た目が父親似で片足突っ込んでいる晃夫はともかく、元祖シティボーイといった雰囲気の長内さんや昭和のインテリ風の母方のおじ達、見た目を気にする盛りの颯也までもが揃いのお岩さんルックに神妙な顔をして、供物や卒塔婆を捧げ持っている。かなりシュールな光景だが究極の「笑ってはいけない」だろう。
「それでは出発します」
八面六臂な畑中君は、バスの運転席に乗り込んだ。お坊さんの資格(?)だけじゃなくて、大型免許も取ってあるなんて!これだけ八面六臂で仕事のできる二代目なら会社も将来安泰だろう。
未だに覚えられない、舌を噛みそうな横文字の社名だけはできれば元に戻してもらいたいのだが……(ちなみに父母世代は昔も今も「畑中葬儀店」で通している)
道中は途中までは順調だった。よろず屋の前の市道を折れて山道を登る。夏なら五分もかからず、何なら散歩がてら徒歩でも墓参りに行ける距離なのだが、凍結している山道は油断禁物だ。
果たして集落の最後の民家を過ぎ、墓地の看板を右折し進入路に入ろうとすると、勾配とカーブががきつすぎてスタッドレスタイヤがキュルキュルとスリップし、空回りしてしまう。
「バックして切り返します」
畑中君はそう言うなりバックを始めたのだが、狭い山道の片側は杉林の勾配、片側は急な崖だ。雪道での運転には慣れていてお手の物……と信じたいが、なにぶん運転が若い。
かなりのスピードで路肩ぎりぎりまで後退したもんだから、平均年齢七十代の後部座席の乗客から声にならない悲鳴が漏れた。真ん中寄り後方の私の所から見ても一瞬、最後部座席が宙に浮いていたように見えた。
「葬儀会社のバス、墓地に向かう途中転落事故」
……なんて縁起でもない見出しが踊る明日の地方紙の一面がちらっと頭を掠めた。
バスは猛然とスピードをあげて前進し、看板の横にある観音様とお地蔵様の鼻先を掠めて前に大きくハンドルを切った。やはりヒヤリとしたが畑中君が自棄を起こしたわけではなく、勢いをつけた反動で登坂を試みたのだと思うが、やはりタイヤは空回りするばかりだ。
「そうだども……」
「もう出発だしどうしようもないじゃない。私のだってこんな真っ青だし『親子揃って常識ないね』ってお祖母ちゃんに呆れてもらうしかないよ」
母はぷっと噴き出すと「いやほに、あんたって子は……呆れたもんだ」と自分のことを棚に上げてさっさとバスに乗り込んでしまった。
娘が娘なら母も母だが、母のしなやかさと辛抱強さも私に遺伝していたらいいのに。
バスに乗り込んで周りを見わたせば、見た目も中身も昭和の雷親父然とした父や従伯父達、見た目が父親似で片足突っ込んでいる晃夫はともかく、元祖シティボーイといった雰囲気の長内さんや昭和のインテリ風の母方のおじ達、見た目を気にする盛りの颯也までもが揃いのお岩さんルックに神妙な顔をして、供物や卒塔婆を捧げ持っている。かなりシュールな光景だが究極の「笑ってはいけない」だろう。
「それでは出発します」
八面六臂な畑中君は、バスの運転席に乗り込んだ。お坊さんの資格(?)だけじゃなくて、大型免許も取ってあるなんて!これだけ八面六臂で仕事のできる二代目なら会社も将来安泰だろう。
未だに覚えられない、舌を噛みそうな横文字の社名だけはできれば元に戻してもらいたいのだが……(ちなみに父母世代は昔も今も「畑中葬儀店」で通している)
道中は途中までは順調だった。よろず屋の前の市道を折れて山道を登る。夏なら五分もかからず、何なら散歩がてら徒歩でも墓参りに行ける距離なのだが、凍結している山道は油断禁物だ。
果たして集落の最後の民家を過ぎ、墓地の看板を右折し進入路に入ろうとすると、勾配とカーブががきつすぎてスタッドレスタイヤがキュルキュルとスリップし、空回りしてしまう。
「バックして切り返します」
畑中君はそう言うなりバックを始めたのだが、狭い山道の片側は杉林の勾配、片側は急な崖だ。雪道での運転には慣れていてお手の物……と信じたいが、なにぶん運転が若い。
かなりのスピードで路肩ぎりぎりまで後退したもんだから、平均年齢七十代の後部座席の乗客から声にならない悲鳴が漏れた。真ん中寄り後方の私の所から見ても一瞬、最後部座席が宙に浮いていたように見えた。
「葬儀会社のバス、墓地に向かう途中転落事故」
……なんて縁起でもない見出しが踊る明日の地方紙の一面がちらっと頭を掠めた。
バスは猛然とスピードをあげて前進し、看板の横にある観音様とお地蔵様の鼻先を掠めて前に大きくハンドルを切った。やはりヒヤリとしたが畑中君が自棄を起こしたわけではなく、勢いをつけた反動で登坂を試みたのだと思うが、やはりタイヤは空回りするばかりだ。
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