ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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祖母の葬儀 6〜雪、上がる〜

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 祖母ほど腰の曲がっている人や杖をついた人達、祖母と同年代の参列者もちらほらいる。農協(この辺の人は「JA」とは言わない)の関係者や市の組合のお仲間なのだろうか。

 生前、何度となく「送る側」になっては気落ちして帰って来た祖母の姿を思い出して、何だかこちらが

「お気落としありませんように」

 などと声をかけたくなってしまう。

 子や孫を代理ではなく付き添いにしてやって来る人もいるが、一人で来た人に手が利かないからと芳名帳への代筆を頼まれたり、香典に書かれた名前がどう見ても判読不能なのでメモを書き添えたり、「どこそこの誰それさんは来てさるべえが来ていらっしゃいますか」などと守備範囲外のことを聞かれたりと、プチ想定外だらけだ。
 驚く事に、三人に一人は本家のおばさん達の顔見知りか知人の知人らしく、「さっき受付けしてったっきゃして行ったよ」「息子さんが来てさるようった来ていらっしゃるみたいだ」などと親しく挨拶しつつ捌いている。
 咲恵ちゃんも堂々としたもので、玄関までの距離を自然に手を貸して支え、空いた場所に座らせてあげたりしている。歳を重ねるというのは、ただ漠然と時が過ぎるままに任せるという事ではない。爪の垢でも煎じて飲みたい。

「式が始まりますので、ご遺族の方は中へ」

 畑中君がそう言ってやって来た時には雪が小やみになってうっすら陽も射してきて、雲の切れ間から青空まで現れたのには感動すら覚えた。気温は低いが、茶の間やサンルームを含めた計四間続きの会場に入りきれなかった人達を悩ませたであろうこの時期特有の強風もなく、早朝の天気からは想像できなかったほど穏やかな日になった。

「うちのおばあちゃん、すごいね。こういう時には特別張り切りそうな気がしてたんだけど」

 私が思わずそうもらすと咲恵ちゃんはくすくす笑ったが、畑中君は

「故人様のご遺徳でしょうね」

 と、そつがない。この四日間で随分「故人様」のトホホ話やとんでもエピソードを耳にしているはずなのだが、さすがプロだ。
「しーちゃん、おばさん達と中入ってなよ。あたしも代わりの人が来たら後から行くから」

「ありがとう、咲ちゃん。あとはお願いね」

 例の香典袋を私と交代した畑中君に託して家に入ろうとしたが、玄関は庭まで人が溢れていてどこから入っていいかわからない。

「サンルームから入った方が近いですよ」

 自分の家なのにまごついて畑中君に助言された。

「静子ちゃん、ご苦労様」

「ほれ、早ぐお祖母ちゃんのそばさ」

 空気を読んだ周りの人たちが進んで道を空けてくれ、まるでモーゼのように遺族席にーー祭壇の向かって左側の最前列に座る両親の後ろ、晃夫の隣の場所にたどり着くことができた。
 祭壇の前には晃夫が連れてきた菩提寺の住職と副住職の二人が座っていた。畑中君の僧侶姿も十分堂に入っていると思ったが、本家本元はきちんと頭を丸めてもっと上等そうな黒と紫の法衣に金色の袈裟を着ている。紫を着た年かさの和尚様の方がご住職だそうだ。

 私が着席するのを見届けたご住職方がおもむろに立ち上がると合掌し「それではこれより故・竹花トシ様のご葬儀を執り行います」と告げた。私達も合掌し、一礼した。
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