ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

文字の大きさ
上 下
60 / 151

よろず屋のおじさんと私 2

しおりを挟む
 ところで私が生まれ育った昭和の半ばから終わり頃は「飽食の時代」などと呼ばれていていた。だが、この近隣の食生活は都会に比べればずいぶん質素だった

 確かに今でも最低賃金や平均収入は低いようだし、ある一定の年代以上の大半が第一次産業従事者だったその頃はもっとそうだったろう。自家製の米と野菜と伝統的な保存食、歩いて五分ほどのところでおじさん夫婦が営むよろず屋の食材で日々の食卓をまかなっていた。
 食べ物に困っていたわけではなくむしろ、今で言えば「素食」とか「健康食」の範囲だーー塩分と味の素、砂糖が過多でさえなければ。

 友達の家だってみんな似たかよったかの暮らしぶりに見えたし、某国民的アニメの登場人物・スネ夫ちゃまのように定番のおかずがステーキや海老フライでおやつはショートケーキ……なんてお宅は漫画の世界のフィクションだと思っていたので、特に気にならなかった。

 そんな時代、そんな場所だったからこそ、おじさんのよろず屋は必要とされていたし商売としても成り立っていたのだろう。

 当時、集落の真ん中を走る市道だけが唯一アスファルト舗装されていたが、しょぼ目のメインストリート沿いに面したコンクリートの二階建て住居兼店舗がおじさんの店だった。
 おじさんおばさん夫婦は昔から年齢不詳な人で、子どもの頃は実年齢なんか気にした事はなかった。黒ずんでの入った建物の年季の入り方からして、おじさんとおばさんが結婚当初から営んでいた店に違いない。おそらく父と祖母の中間くらいの年代なのではないだろうか。

 海の町の店らしく店の半分は魚屋で、市場で仕入れた新鮮な魚を客に頼まれて刺身にしたり三枚に卸したりする。打ちっ放しの床はいつも水で洗われて濡れていた。

 残りのスペースには消費期限の少し怪しい青果とおばちゃんお手製のお総菜、新鮮な魚や海藻、CMで宣伝されているレトルトやインスタント食品(母の方針で食べさせてもらえなかった)、駄菓子や文房具、洗剤やボールなどの日用品がごたまぜに売られていた。

 私も晃夫も小さな頃は母親にくっついて、小学生になってからは友達と一緒駄菓子を買ったり、あるいは学校で使う文房具を買ったりお使いを頼まれたりして年中通っていた。
 今でも「よろず屋」「駄菓子屋」という単語を聞くと、なんとなく塩っぽい魚と熟した果物の匂いが漂っていそうなイメージが浮かぶ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...