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よろず屋のおじさんと私 2
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ところで私が生まれ育った昭和の半ばから終わり頃は「飽食の時代」などと呼ばれていていた。だが、この近隣の食生活は都会に比べればずいぶん質素だった
確かに今でも最低賃金や平均収入は低いようだし、ある一定の年代以上の大半が第一次産業従事者だったその頃はもっとそうだったろう。自家製の米と野菜と伝統的な保存食、歩いて五分ほどのところでおじさん夫婦が営むよろず屋の食材で日々の食卓をまかなっていた。
食べ物に困っていたわけではなくむしろ、今で言えば「素食」とか「健康食」の範囲だーー塩分と味の素、砂糖が過多でさえなければ。
友達の家だってみんな似たかよったかの暮らしぶりに見えたし、某国民的アニメの登場人物・スネ夫ちゃまのように定番のおかずがステーキや海老フライでおやつはショートケーキ……なんてお宅は漫画の世界のフィクションだと思っていたので、特に気にならなかった。
そんな時代、そんな場所だったからこそ、おじさんのよろず屋は必要とされていたし商売としても成り立っていたのだろう。
当時、集落の真ん中を走る市道だけが唯一アスファルト舗装されていたが、しょぼ目のメインストリート沿いに面したコンクリートの二階建て住居兼店舗がおじさんの店だった。
おじさんおばさん夫婦は昔から年齢不詳な人で、子どもの頃は実年齢なんか気にした事はなかった。黒ずんでひびの入った建物の年季の入り方からして、おじさんとおばさんが結婚当初から営んでいた店に違いない。おそらく父と祖母の中間くらいの年代なのではないだろうか。
海の町の店らしく店の半分は魚屋で、市場で仕入れた新鮮な魚を客に頼まれて刺身にしたり三枚に卸したりする。打ちっ放しの床はいつも水で洗われて濡れていた。
残りのスペースには消費期限の少し怪しい青果とおばちゃんお手製のお総菜、新鮮な魚や海藻、CMで宣伝されているレトルトやインスタント食品(母の方針で食べさせてもらえなかった)、駄菓子や文房具、洗剤やボールなどの日用品がごたまぜに売られていた。
私も晃夫も小さな頃は母親にくっついて、小学生になってからは友達と一緒駄菓子を買ったり、あるいは学校で使う文房具を買ったりお使いを頼まれたりして年中通っていた。
今でも「よろず屋」「駄菓子屋」という単語を聞くと、なんとなく塩っぽい魚と熟した果物の匂いが漂っていそうなイメージが浮かぶ。
確かに今でも最低賃金や平均収入は低いようだし、ある一定の年代以上の大半が第一次産業従事者だったその頃はもっとそうだったろう。自家製の米と野菜と伝統的な保存食、歩いて五分ほどのところでおじさん夫婦が営むよろず屋の食材で日々の食卓をまかなっていた。
食べ物に困っていたわけではなくむしろ、今で言えば「素食」とか「健康食」の範囲だーー塩分と味の素、砂糖が過多でさえなければ。
友達の家だってみんな似たかよったかの暮らしぶりに見えたし、某国民的アニメの登場人物・スネ夫ちゃまのように定番のおかずがステーキや海老フライでおやつはショートケーキ……なんてお宅は漫画の世界のフィクションだと思っていたので、特に気にならなかった。
そんな時代、そんな場所だったからこそ、おじさんのよろず屋は必要とされていたし商売としても成り立っていたのだろう。
当時、集落の真ん中を走る市道だけが唯一アスファルト舗装されていたが、しょぼ目のメインストリート沿いに面したコンクリートの二階建て住居兼店舗がおじさんの店だった。
おじさんおばさん夫婦は昔から年齢不詳な人で、子どもの頃は実年齢なんか気にした事はなかった。黒ずんでひびの入った建物の年季の入り方からして、おじさんとおばさんが結婚当初から営んでいた店に違いない。おそらく父と祖母の中間くらいの年代なのではないだろうか。
海の町の店らしく店の半分は魚屋で、市場で仕入れた新鮮な魚を客に頼まれて刺身にしたり三枚に卸したりする。打ちっ放しの床はいつも水で洗われて濡れていた。
残りのスペースには消費期限の少し怪しい青果とおばちゃんお手製のお総菜、新鮮な魚や海藻、CMで宣伝されているレトルトやインスタント食品(母の方針で食べさせてもらえなかった)、駄菓子や文房具、洗剤やボールなどの日用品がごたまぜに売られていた。
私も晃夫も小さな頃は母親にくっついて、小学生になってからは友達と一緒駄菓子を買ったり、あるいは学校で使う文房具を買ったりお使いを頼まれたりして年中通っていた。
今でも「よろず屋」「駄菓子屋」という単語を聞くと、なんとなく塩っぽい魚と熟した果物の匂いが漂っていそうなイメージが浮かぶ。
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