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母、帰る
しおりを挟む「お父さんとお母さんは?」
風呂からあがったみっこ伯母が湯から上がりたての平和な笑顔で聞いてきた。
「ちょっと用があって外に……」
「そう。お風呂、冷めないうちに誰か入って」
「はい」
「お先にお休みなさい。二人とも早く休んで」
みっこ伯母はそう言って二階に上がった。
「お風呂どうする?」
本当は風呂どころではないのだが、給湯式で追い焚き機能も保温機能もない風呂はみっこ伯母の言う通り、順番にどんどん入らないと冷めてしまう。
毎日線香と酒の匂いにまみれているので何をおいても風呂は必須だが、このあと母を探しに行くかもしれない事を考えると湯冷めで風邪をひくリスクはある。
私や晃夫の一人や二人、ダウンしたとしても何とか回るのかもしれないが、もし母の機嫌が戻らず戦線離脱されてしまったら祖母の葬儀はどうなるのだろう?
いや、そんな事より母の身に何かあったら?探しに行った父がどこかで転倒でもしていたら?
ふと、とてつもない不安に襲われた。
「先に颯也を風呂に入らせて」
晃夫が言った。
「うん、わかった」
「もう少しして誰も戻らなかったら俺も探しに行く」
母がいるのはどうせ徒歩圏内なのだろうが、自分もつい飲んでしまって車を使えないのは痛いーーいや、飲んでいなかったとしてもこの家の自家用車は父の謎のこだわりのせいで、晃夫までオプションのマニュアル車だ。
私は頭を抱えた。
「警察に相談した方がいいのかな」
「どうだべ」
その時玄関の開く音がして、いつも通りの父と母の話し声がした。私達は顔を見合わせて心底ほっとした。
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