ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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通夜三日目 5〜颯也とひい祖母ちゃん〜

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「颯也の作文はどうした」

 圧政と理不尽に苦しみながら明日低体温で絶命するかも知れないマッチ売り……ならぬ受付の娘に、専制君主の父が上から聞いてきた。弔辞代わりに颯也に書いて読ませると張り切っていた「おばあちゃんへの手紙」のことだ。

「あ……そうだった。聞いてみる」

「馬鹿でねえ。忘れてだのか」

 父はさらに輪をかけて不機嫌になった。自分で思いついたのだから、自分で催促なり何なりしてみればいいのにーー

「いや、書いていると思うよ。清書させたら見せるから」

 と、答えたものの正直、颯也が書くことに困っているのは想像がつく。母が夜勤や土日出勤のたびに面倒を見てもらっていた同居の孫の私たちと違い、彼にとっての曾祖母とは年に一度、夏休みの時にだけ会ってお小遣いをくれる人に過ぎなかったのかもしれないし。

 祖母も曾孫の来訪に「よぐ来たなあ」「元気だったが」と喜んではいたがーーいや、本当に嬉しかったんだろうけどーーまだまだ体が利いて頭の回る両親ならともかく、祖母にやんちゃ盛りの幼児の相手を頼むのは忍びなかった。
 お盆の準備が終わるとエネルギーを持て余す二人の子を毎日海や山に連れて行くのが私達夫婦の日課だったから、彼らが祖母と過ごしていた時間なんて積算してもほんのわずかだろう。

 小学生になって少しは祖母の前で大人しくしたり気遣ったりできるようになったものの、認知症気味の八十代とそうそう盛り上がるような話題があったとも思えない。
 子どもながらに親族としての親近感や高齢者を大事に思う気持ちは持ってくれていたとは思うけど……

 晃夫の部屋でゲームに興じていた颯也に「ひい祖母ちゃんの手紙は」と聞くと案の定、「あ、そうだった。書いてない」とけろりと返された。
「一体誰に似たんだ」と詰め寄りたくなったが、じいちゃんから渡された原稿用紙に一応四苦八苦したような形跡があったので思い止まった。

「だって何書いたらいいかわかんないんだもん」

「そうだねえ。小さい頃はお年寄りが珍しかったのか、ひい祖母ちゃん、ひい祖母ちゃんってくっついてた時もあったんだけど」

「へえ」

「あんた、とにかくよく動く子だったからお祖母ちゃんに怪我させるのが心配でさ。でもそんなこと覚えてないだろうしね」

「うん」

「颯也が生まれたとき、とっても喜んでくれたんだよ。縁側で抱っこしてたら近所のお年寄りが来て、『 ひっこ様よがったなす ひ孫さんが生まれてよかったですね』って言われてすごくにこにこしてて……」 
 
「そうなんだ」

「颯也は重くなるしお祖母ちゃんは腕が痛いしで、すぐに抱っこもできなくなっちゃったんだけどね」
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