ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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母、家出する? 

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 あっという間の出来事で、私と晃夫はポカンと眺めているくらいしかできなかった。

「なあに、肝ぉ焼いでんべ怒ってるんだろう……なあ?」

 動揺した父がへらへらと私たちに笑いかけたからって免罪にはならないし、母だって空気を察して戻ってきたりはしない。私たちは沈黙で返した。

 そもそも自宅で葬儀をやる事になったのは祖母が律儀に葬儀の希望をエンディングノートに書き記していた訳でも、ドラマのように家族に囲まれながら遺言を言い残したからでもない。
 24時間営業のコンビニもファミレスも無い田舎だが、畑中君の会社に頼めばセレモニーホールで現代式おまかせパックの通夜と葬儀くらいはできる。

 母曰く「何でも昔風が好きな人」の祖母は父に劣らず交友関係か広くーー祖母自身の友人というよりは、主に曽祖父の代からつき合いのある親戚筋やご近所、農協やいちの組合つながりが主だがーーここ十年以上は同世代の葬儀が続くようになっていた。
 祖母は地方紙の訃報欄を見て「あやでぇやぁOh,my got!」と嘆いては、父に送迎をさせたり付き添わせたりしながら律儀に参列し「ホールの葬儀は味気ない」「今日は家での葬式でいい式だった」などと帰路の車中で批評していたという。

 それで、いざという時はその意を汲んでやろうというのが父と母の間での暗黙の了解事になっていたようだ。

「あの馬鹿、こっただ時間にどごさいったべ?」

 まだ五分も経たないうちに短気な父はそわそわし出す。

「お母さん、外套着てたっけ……?」

 私達も心配になってきた。いくら最近は暖冬だといっても真冬は氷点下の東北の夜だ。

 昭和の頃までは飲む以外の娯楽も特にない第一次産業従事者ばかりの町だったから、町の飲み屋でべろべろになるまで飲んで、帰り道に道ばたで寝込んであえなく凍死……というトホホな死因が脳卒中に次ぐ第二位だった、という嘘だと思いたい真実味のある説が残っている。

「みんなで探しに行った方がいいんでねえ?」

 晃夫が立ち上がった。

「いや。どうせその辺さいんべ。俺ぁ行ぐ」

 父は自分と母の二人分の上着を手に、外に出て行った。本人的にはセーブしたつもりでも、父も晃夫も酔っぱらいなのは同じだ。
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