ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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私にだって言い分はある 2

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「颯也やって」

 テーブルの向こうの椅子で携帯ゲームに興じている颯也に声をかけてみたが、聞こえてないのか面倒なのか反応がない。

 なぁして颯也さやらせんばどうして颯也にやらせるんだんがぁお前がやれ」

 父が不機嫌に怒鳴った。

「あのバケツからとなりのバケツに移すだけじゃない。颯也でもできる」

 コンポスト行きのポリバケツのすぐ横に、ひと回り小さい可燃物行きの生ゴミバケツが置いてある。

「颯也さばやらせんな」

「なんでよ。私、颯也くらいの年には家事と雑用ならたいがいのことはやらされてた」

 だいたい父自身、出がけの玄関で靴を履いてから忘れ物に気づいて私や晃夫に「あれ取ってこい」「これ捨てておけ」ーーなんてのはまだわかるが、茶の間でゴロリと寝転んでる時だって自分の方が距離的に近くても私達をマジックハンド代わりにしていた。今だって私に対してはそうだ。

 初老と中年、いい年の大人二人が自分の名前を出して親子喧嘩になっていることに気づいた颯也は、驚いて顔をあげたまま固まっている。

「さっきのおにぎりを移せばいいの?」

 調整力と包容力が擬人化されて歩いているような仏のみっこ伯母が事もなげに立ち上がり、バケツに向かった。

「ご飯食べてる人がいるのに、開け閉めしたら臭くない?」

 蓋を開けようとした伯母を、父と母が慌てて制した。

「こっただごどで大声で喧嘩して……人目ぁ悪い体裁が悪い

 伯母に代わって古いおにぎりを投げ込んだ手つきと生ゴミバケツの腐臭が、母の最大級の不機嫌を代弁していた。父はそれでも「静子が……」とぶつぶついいながらご飯をかき込んでいた。

 戻って来た晃夫は微かな悪臭に眉をしかめたが、流れている微妙な空気には気づかなかった。

「みっこ伯母さん、お風呂が沸いたから入ってください」と勧めた。

「じゃあお言葉に甘えて」

 と、みっこ伯母は台所から出ていった。
 颯也はその隙に、沈むタイタニックの鼠よろしくそっと晃夫の部屋に退散した。

 ご飯を食べ終え、母にお茶を入れてもらう頃には父はもうけろりとしていて、葬式当日までよろず屋の駐車場を借りているがお礼に一万も包めばいいだろうかとか、後は来ていた親戚の人達の話なんかを思いつくままにあれこれ話していた。
 普段はそれらに「ほにねぇ」「あやまぁ」などと相槌を打つ母が、ずっと無言で父の使った食器を洗っていた。

「しかしまあ、家での葬式づうのはこえぇ疲れるもんだなあ。しねえばよがった」

 喪主の父がふと漏らした放言に、遺族としての表の役割と裏方仕事の一切を否応なしに切り盛りし続けていた母の中で何かが切れた。

「なに、今さら…… そっただ事言うんだら そんな事言うんたら、最初っからしねぇばよがったべすしなかったらよかったじゃない

 母は声を荒げてそう言うと外したエプロンをテーブルの上に叩きつけ、玄関からふいっと出て行ってしまった。
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