73 / 151
祖母の姉 2
しおりを挟む
ところでお互いいい大人同士になってしまうと、同世代でもなくかといって親世代ほど離れているわけでもない久しぶりの親戚同士というのは距離感の縮め方に困る。
大祖母にジュースを、昌弘君にウーロン茶を注いであげてしまうともう次の話題に困ってしまう。
昔はしーちゃんしーちゃんって呼んで勝手にまとわりついてくれて、こっちからあれこれ話題を考えて頑張って話しかけようとしなくても自然にコミュニケーションがとれていた。
青春時代にハマっていたことだって全く違うだろうし、しかもまだ二十代とか……別人種じゃない?さすがに流行りのギャル男風ではないものの、存在自体がキラキラし過ぎて眩しい。
歳だけは無駄に重ねたが、おば達のように「仙台はどう?」「仕事はどう?」「いい人いないの?」などと、どうでもいいような会話をダラダラ続けながらさりげなくじわじわと根掘り葉掘り、個人情報を聞き出す合わせ技が全く身についていないのが残念だ。
「お祖母ちゃん、葬式も来たいって言ってきかないんだ」
微妙な長さの沈黙が続き、かえって立ち上がるタイミングに困ってしまっていた時、昌弘君がふいにまた話し始めた。
「足も悪いし、墓まで歩けるわけないのに」
耳から遠いという大祖母は孫と大姪が会話する様子をただ楽しげに、ニコニコと見守っている。
「ええっ……気持ちはありがたいけど、無理しなくていいと思う。うちのお墓、山の中で大変だもの」
「お祖母ちゃんの気持ちもわかるんだよね。お祖母ちゃんの姉妹で生きているの、トシさんだけだったし」
「ああ……そうか」
お祖母ちゃんの小さい頃も、妹キャラで誰かに構われたり可愛がられていたのも想像がつかなくて不思議な気がする。
私も何とかできないかと思うのだが、どうにもなりそうにない。
うちのお墓は集落内の共同墓地にある。昔、この辺りがまだ村だった頃、共有林を切り開いて造ったらしい。墓地の入り口までは車で入れるし家の墓までの距離も大した事はないのだが、立地柄かなりの急斜面で、さすがの祖母も最後の数年は盆の墓参りを諦めていたくらいだ。
真冬に行ってみたことはさすがにないが、雪掻きをしても下の方は凍っているだろうし、後期高齢者に差し掛かった上の伯父伯母ですら無事に行って帰って来れるのか心配なレベルだ。
「家ではもう、代理で親父が来ることにしてあるんだ。でもお祖母ちゃんが言うこときいてくれなくて、ここにくる前も大喧嘩で……」
「ええっ。やだ、うちのお葬式の事なんかで家族喧嘩なんかしないでよ」
「こう見えて頑固でさぁ。頭ははっきりしてるんだけど」
昌弘君は困ったような表情で大祖母の方をちらっと見た。なるほど。祖母の姉だけのことはあるのか。
「元気で頭がはっきりしてるなんて、幸せじゃない」
「そうなんだけどさ。しーちゃん、説得してもらえない?」
「ええっ、なんで私?」
思いもかけない依頼につい、素っ頓狂な声を出してしまった。
大祖母にジュースを、昌弘君にウーロン茶を注いであげてしまうともう次の話題に困ってしまう。
昔はしーちゃんしーちゃんって呼んで勝手にまとわりついてくれて、こっちからあれこれ話題を考えて頑張って話しかけようとしなくても自然にコミュニケーションがとれていた。
青春時代にハマっていたことだって全く違うだろうし、しかもまだ二十代とか……別人種じゃない?さすがに流行りのギャル男風ではないものの、存在自体がキラキラし過ぎて眩しい。
歳だけは無駄に重ねたが、おば達のように「仙台はどう?」「仕事はどう?」「いい人いないの?」などと、どうでもいいような会話をダラダラ続けながらさりげなくじわじわと根掘り葉掘り、個人情報を聞き出す合わせ技が全く身についていないのが残念だ。
「お祖母ちゃん、葬式も来たいって言ってきかないんだ」
微妙な長さの沈黙が続き、かえって立ち上がるタイミングに困ってしまっていた時、昌弘君がふいにまた話し始めた。
「足も悪いし、墓まで歩けるわけないのに」
耳から遠いという大祖母は孫と大姪が会話する様子をただ楽しげに、ニコニコと見守っている。
「ええっ……気持ちはありがたいけど、無理しなくていいと思う。うちのお墓、山の中で大変だもの」
「お祖母ちゃんの気持ちもわかるんだよね。お祖母ちゃんの姉妹で生きているの、トシさんだけだったし」
「ああ……そうか」
お祖母ちゃんの小さい頃も、妹キャラで誰かに構われたり可愛がられていたのも想像がつかなくて不思議な気がする。
私も何とかできないかと思うのだが、どうにもなりそうにない。
うちのお墓は集落内の共同墓地にある。昔、この辺りがまだ村だった頃、共有林を切り開いて造ったらしい。墓地の入り口までは車で入れるし家の墓までの距離も大した事はないのだが、立地柄かなりの急斜面で、さすがの祖母も最後の数年は盆の墓参りを諦めていたくらいだ。
真冬に行ってみたことはさすがにないが、雪掻きをしても下の方は凍っているだろうし、後期高齢者に差し掛かった上の伯父伯母ですら無事に行って帰って来れるのか心配なレベルだ。
「家ではもう、代理で親父が来ることにしてあるんだ。でもお祖母ちゃんが言うこときいてくれなくて、ここにくる前も大喧嘩で……」
「ええっ。やだ、うちのお葬式の事なんかで家族喧嘩なんかしないでよ」
「こう見えて頑固でさぁ。頭ははっきりしてるんだけど」
昌弘君は困ったような表情で大祖母の方をちらっと見た。なるほど。祖母の姉だけのことはあるのか。
「元気で頭がはっきりしてるなんて、幸せじゃない」
「そうなんだけどさ。しーちゃん、説得してもらえない?」
「ええっ、なんで私?」
思いもかけない依頼につい、素っ頓狂な声を出してしまった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
夜食屋ふくろう
森園ことり
ライト文芸
森のはずれで喫茶店『梟(ふくろう)』を営む双子の紅と祭。祖父のお店を受け継いだものの、立地が悪くて潰れかけている。そこで二人は、深夜にお客の家に赴いて夜食を作る『夜食屋ふくろう』をはじめることにした。眠れずに夜食を注文したお客たちの身の上話に耳を傾けながら、おいしい夜食を作る双子たち。また、紅は一年前に姿を消した幼なじみの昴流の身を案じていた……。
(※この作品はエブリスタにも投稿しています)
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
青春リフレクション
羽月咲羅
青春
16歳までしか生きられない――。
命の期限がある一条蒼月は未来も希望もなく、生きることを諦め、死ぬことを受け入れるしかできずにいた。
そんなある日、一人の少女に出会う。
彼女はいつも当たり前のように側にいて、次第に蒼月の心にも変化が現れる。
でも、その出会いは偶然じゃなく、必然だった…!?
胸きゅんありの切ない恋愛作品、の予定です!
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる