ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

文字の大きさ
上 下
65 / 151

よろず屋のおじさんと祖母 2

しおりを挟む
 夕方、そのことを知らない父がいつものように買い物に来た。おじさんは店の入り口のポリバケツに生けた花を見せて

なじょしたもんだべどうしたものだろう

 と相談した。

「どうせ また来るべぇすけ、これがら払ってけろ また来るだろうから、これから払ってくれ

 父はそう答えて言って一万円を預けてきた。

 祖母はそれからちょくちょくよろず屋に花を「納品」しに行き、おじさんは花の帳簿を別に付けてそれらしく設定した金額を少しずつ支払った。
 父は置いてきたお金が無くなりそうな頃になるとおじさんに「支払い」をしに行った。

 それはその年のその時期だけのことだったらしいのだが、代わりにーーということでいいのか何なのかーーとにかくそれ以来、祖母が孫を捜しに行く事はなくなったそうだ。

 よろず屋のおじさんの返杯でほろ酔いになりながら、私はそれからも空の酒どっくりやビールのコップ、皿類を回収して台所と座敷を往復した。

 父と晃夫の間に座ってジュースとオードブルをつまんでいた颯也も、大人だけの席に疲れたのか私と一緒に台所に戻って来た。

「颯也のお弁当あるよ。食べる?」

「うん」

 三日間の昼食と夕食は、オードブルを配達してくれたのと同じ仕出し屋にお弁当を頼んであるそうだ。

 料理を外注してもこれだけ大変なのに、曾祖母の葬儀の時は親戚と近所の女性達が総出で煮染めや黒飯や蕎麦を作っていた。

「煮染め」は盆や大晦日などに供される煮物で、「黒飯」は赤飯の不祝儀バージョンだ。豆の煮汁をつかわずに白黒に仕上げたもので、昔は小豆ではなく「ささげ豆」を使っていたらしいーー自分で作った事はないのだが。

 昭和式の八畳ほどのダイニングキッチンに女が何人も集まって大量の料理を作ったり配膳で出たり入ったりしていたのを覚えている。身動きをとるのも大変だったろうに、よく喧嘩せずに作業ができたものだ。

 もっとも母によると、曽祖母の本家筋の人達も来ていて、そこのお婆さんがあれこれと細かく注文をつけて仕切るのを祖母が嫌って敵前逃亡してしまったりーーと、細かい事件は色々あったらしいが。

「私たちも手が空いたときに交代で食べよう。しーちゃん、今のうちに食べたら」

 洗い物が一段落した時、みっこ叔母がそう言ってくれた。

「叔母さん達は」

「私たちもそのうち食べるから」

 私は颯也と一緒にお弁当をいただいた。念仏の時は緊張していて気づかなかったのだが、お昼ご飯が軽めだったのでかなり空腹だった。

 みっこ伯母は母と一緒に座敷にお酒を運んで行ったまま、久しぶりにきょうだい達と話し込んでいるのかしばらく戻ってこなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...