ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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よろず屋のおじさんと祖母 1

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 月日が流れて私達が故郷を離れた後、商店街との相互効果で共存していたスーパーが揃って郊外にできたバイパス沿いに移転しだし、新たに進出した全国チェーン店街が追い打ちをかけ、市内の個人商店はさらに衰退した。

 ただでさえ回転の悪いよろず屋の品揃えはおばさんが亡くなってから半減し、店構えは急に寂しくなった。
「地域の店は地域で支える」などということをはっきりスローガンにしていたわけではないのだが、親世代の常連客はそこで買える物を見つけては定期的に通い続けていた。

 母は以前に増して魚と海藻の鮮度にムラがある事に悩まされていたが「おじさんが仕入れに出かけた直後ならいい物が買える」と心得ていたし、父は骨粗鬆症予防のためのパック牛乳と祖母の好物のサイダーはおじさんの店で買うと決めていた。

 その少し前から祖母は「はぁこわいもう疲れた」と言って市にも行かなくなっていた。
 それまで他の人の一生分の、おそらく倍以上は働いてしまったであろう祖母は茶の間でテレビを観ているか、サンルームで日がな一日ぼうっとしているか自分の部屋で昼寝しているか……という時間が多くなっていた。
 認知症の症状が出始め、生来の頑固さがさらに一筋縄ではいかなくなった。

 財布や現金や権利書がないと騒ぎ、母を疑って夜中に悪口を叫ぶ、徘徊といったことを一通りやった。成人して自立しているはずの私達が迷子になったと言って交番に相談に行ったり、通学路に立って「おらほの孫うちの孫見ながったべか」と聞いたり、かと思うと子どもたちに飴を配ったりしていたという。

 ある時、祖母は自分の花壇の花を切り花にしておじさんのよろず屋に持って来て「置いでけねぇべえが店に置いて売ってくれないか」と相談した。

 衣食住の心配がなかろうがお金を使うあてがなかろうが、自分で作った物を売って稼いできた祖母の矜持で、体が利かないなりにできそうなことをどうにかこうにか考え出したのだろう。
 だがその切り花も土地の余っている田舎のどこの庭にでも咲いているような花で、近所つき合いの延長程度に細々と開いている店で需要があるようにはとても思えない代物だった。

 が、おじさんもそこは昔からの仲だから「売れるか売れないかわからないが、売れたら金を払う」と約束して祖母を帰した。
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