ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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通夜一日目 5〜最近は葬式饅頭って出さないんだね〜

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 最後のお祖母ちゃん孝行とばかりに気前よく注ぎすぎたせいか、念仏の途中で水差しの水が空になってしまい、途中から礼だけをしていたーー少し間抜けだ。皆念仏を唱えて数珠を回すのに一生懸命で、誰も見ていない事を祈る。

 数珠が百八周回り、念仏が終わった。水差しが空になった最後の十数周は背中に嫌な汗をかき、それまでの約九十周と同じくらい長い時間に感じた。

「先ほども申し上げました通り、仏様は皆様の上げ申されるお線香の煙を道しるべに四十九日の間、仏様の元へと旅をなさいます。できましたらその間、せめて初七日まではどうかお線香を絶やされませんようお願い致します」

 と、畑中君がおもむろに締めくくり、一同合掌して散会となる。

 そうか。お線香や四十九日の法要にはそういう意味があったのか。

 さて、女は忙しい。

「通夜ぶるまい(要するに飲み会)」の準備もしなければならないが、ここで帰る客には「念仏菓子」と呼ばれる菓子折りを配る。
 最近は昔ながらのいかにもな「葬式饅頭」ではなくマドレーヌやクッキーの詰め合わせが主流のようだ。今の時代の子どもだったらよかった。
 
 子ども時代は甘い物に飢えていた。

 通年でふんだんに食べられる甘い物と言えば、父の貰ってくる焼印のついた草履大の葬式饅頭くらいしかなかった。季節物では夏休みに余所の家で呼ばれる「砂糖入りの麦茶」か祖母が作る「豆しとぎ」という季節物の郷土菓子。葬式饅頭も豆しとぎもボソボソとしてベタベタに甘かった。

 一億総中流家庭の子なので、戦中世代とは違い「甘い物なら何でもいい」という訳ではない。
 全く無いなら無いで諦めもつくが「甘いというだけで不味いもの」「似て非なる物」を「ほれ、そごさあんべえそこにあるだろう」と当然のように大威張りされるのは理不尽さだけが増す。

 もっとも家に甘い物が常備してないのは母の意向が強かったからだーーと大人になってから知った。「子どもの虫歯」が社会問題になっていた頃でもあり、

 確かにに子どもの食生活に大量生産の菓子や飲料が入ってきて、母親達の知識が追いついていない時代ではあった。「乳歯は生え変わるから虫歯になっても大丈夫」という意識でいた大人も多かったもんだから、友達の何人かは「味噌っ歯(虫歯の進行やその進行止めの薬で変形、変色している)」だった。
 今では食事やお風呂同様、子どもの口腔ケアは当然視されて情報もグッズも溢れているお陰でそんな子は見かけなくなったが。

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