ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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通夜一日目 2〜あんじゅ様登場〜

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 仏事用の小形の膳の傍に見慣れた祖母愛用の湯呑と、ご飯が山盛りに盛られた茶碗が置かれていた。

 物持ちの良すぎるくらい良い祖母は、晃夫が高校の修学旅行でお土産に買ってきたという湯呑を気に入って、ずっと大切に使っていた。
 祖母は自分の食器と衣類は自分で洗っていたが、母も食後のお茶を淹れる時などに間違っても割ったりしないよう神経を使って扱っていた。

 そんな事をふと思い出して寂しくなった。

 ……そう言えば「あんじゅ様」って誰?

 聞いてみたかったのだが、さっこ伯母はゆり子伯母に何かの場所を聞かれて台所に戻ってしまった。母は弔問客の見送りか別な用事か、席を外しているようだ。

 さっこ叔母は母とは年も近く、高校も職場も一緒で、今も一番親しく往来している。他の伯母達からは「双子よったみたいだ」と笑われているくらいなのだが、人の家の台所のことまで聞かれるのでは「ほに、ゆるぐない本当に大変だ

 素朴な疑問はしまっておいて、指示されたとおりに午後の弔問客に黙々と茶を出す。
 おじ達は父と仏間にいて明日以降の相談に乗ったりしている。午後に来た近所の弔問客は、そのまま通夜の始まる時間まで待っている。その輪に祖母の実家方の人達が加わる。

 「念仏」と呼ばれるこの土地の通夜は、親族と故人と親しかった人達が三晩集まって大数珠を回し、念仏を唱和する。

 記憶からすっかり抜け落ちていたそんな風習にも驚いたが、そろそろ始まるというので喪服に着替えて仏間に行くと、二間にぶち抜いた座敷の真ん中にまるで退治されたばかりの大蛇のように巨大な数珠がざらりと置かれていて、度肝を抜かれた。
 祭壇の前に置かれた房のついた一番大きな親玉は、子どもの頭ほどもある。

 数珠を取り囲むように近所の人や親戚たちが祭壇の真ん前を避けた車座になっており、祭壇から一番遠いサンルームにも何人かが座っている。この人達は前日や当日の弔問に来た上で、平日七時開始の通夜に五分前行動どころか開始時間の十五分前には全員集合していたのだ。
 ほとんどの人は明日と明後日の計三晩の通夜と平日昼間の葬儀に来る予定で都合をつけているし、仕事や所用でぎりぎり駆け込む人すらいない。セミリタイア以上の年代の人だという事もあるだろうが、田舎の人たちのこういった律儀さは衝撃的ですらある。

ーーやっぱり私、こっちではもう暮(略)

 鈍色の衣に木蘭色の袈裟を掛けた僧衣の人物が晃夫に案内されて最後に、しかし時間よりは早めに現れた。

ーーあ。この人が「あんじゅ様」かぁ。って、ええっ?
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