ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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園長先生 1

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 そんなこんなで私達がやっと朝食を取り終わるかどうかという時に最初の弔問客が訪れる。まだ朝の八時前だが、地域ルールでは十分常識の範囲内だーーうんやっぱり、こっちではもう暮らせないかも。

「あれ、静子ちゃん」

 仏間で父と話す白髪頭の男性が私に気づいて声をかけた。私も見覚えがあったーーもっと若い頃のその人に。

 私と晃夫が通っていた保育園の園長先生だった。

「園長先生。ご無沙汰しています」

「ずいぶん大きくなって」

 園長先生は、この一帯が小さな村だった時代からある教会の牧師さんでもある。
 私たちが神様に見守られながらワイルドな園生活を送った年月よりも、先代の園長先生から二代続けて町内の住人としてつき合ってきた年月の方が実家にとっては長い。実家も町内もクリスチャンの家は少数派だが、子どもが園でお世話になった家は多い。

 祖母が腹の底で疑ったり僻んだりすることなく信頼を寄せてつきあっていた数少ない人の一人でもあった。性格に多少難はあっても信心深い祖母だったので。

「この度はおばあちゃん、残念でしたね。でも、お孫さんが曾孫さんを連れて来てくれて喜んでいるでしょう」

 園長先生はしみじみと、園児に神様のお話を語って聞かせる時のような口調でそう言った。

「そうだといいんですけど。火葬には間に合わなくて……」

「遠いんだし、お子さんを育てて仕事もしていたら仕方ないですよ」 

 昔の恩人にそう言ってもらえて少しだけ罪悪感が和いだ。

「私は通夜や葬儀には来れないので、ここで拝んで行きます」

 園長先生はそう言って祭壇の祖母に向かって手を合わせた。

ーーそうか、そういうもんなのか。

 この歳になっても、当然知ってたつもりで実は知らずにいたことが意外にたくさんある。

 日々の暮らしがアースカラー一色で、キラキラした横文字の娯楽に飢えていた昭和の片田舎の子ども達にとって、園のイースターやクリスマス会は心踊る体験だった。ピンクのイースターエッグや年長さんが聖誕劇で着る憧れの白い紗の衣装など、思い出すと今でもワクワクする。
 が、大きくなるまでその深い意味を考えた事は無かったーーいや、多分子ども向けに教えられてはいたんだろうけど。
 
 当時は珍しかったハロウィンの仮装も町の秋祭りに合わせて行われていて、園児以外の子ども達も参加できる一大イベントだった。
 そこは思想信条だか信仰上の何やら色々を地域の子ども達のために曲げてくれていたのだろう。感謝するしかない。

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