ばあちゃんの豆しとぎ

園長先生 ３

　門がどうこうという以前に園庭そのものが田圃の真ん中ーー木々に囲まれた教会の庭の地続きにあった。堺目のあってないような園庭の端の部分は昔ながらの農道と繋がっており、ご近所の生活道路と見なされているのだ。

　夏休みで他の子ども達の姿はなかった。
　同年代の子達は大人になるとみんな外に出てしまい、小さな子ども達が畑にいる大人に時々怒られながら我が物顔で走り回るーーという光景は見られなくなったが、ここでは今も園児が遊んだり出し物の練習をしたりする横を農家や信徒の大人が行き交い、登下校中の小学生が小さな子にかまったりウサギと遊んだり、昔の担任の先生に「お祭りいつ？」なんて聞いたりーーしているのだろうか？

　時代と土地柄のせいか子どもを取り巻く環境は驚くほどおおらかだったし、今では考えられないことが他にいくつもあった。

　颯也が年長組になった時に「はあはあもうわらすどうべぇ子ども達だけで保育園さ行って来るすけ保育園に行って来れるから楽だな」と祖母に言われた。

　確かに四歳か五歳の頃、晃夫と二人で登園したり友達と一緒に「今日はどこ通る？」なんて、どれも田んぼや畑の中の道を近道したり遠回りしたりして帰ってきた記憶がある。

「まさかな」

　自分が母親になって保育園の送り迎えをしたり通学路の見守り当番をするようになってからは、さすがに自分の記憶違いで誰か大人が一人くらい後ろについていたんだろう、と思っていたのに。

　母に聞いたら

「年長組は自分達どうで通えたんだ。下の子が歩ければ一緒に」

　なんて事もなげに答えられた。

　やっぱり自分達だけで行き帰りしていたのか……

　私達が小さい頃は曾祖母や祖母が主に送り迎えをしていたそうだが、その記憶はあまり無い。
　当時の大人側は「来年学校に入るのだから」「兄姉なら弟妹の面倒を見るものだ」という意識だったのだろう。
　その大人達も下手をすると、自分自身が幼い弟妹を背負って学校に通ったような世代だ。当然、登下校班なんかも無かった。

　生活圏で出会う皆が誰かしらの知り合い同士だったから「自然発生型放置式集団保育」の延長でそれができたのだろう。

　早々に責任や役割を負わされて平均的な独り立ちの時期も早かった私達の世代だが、近距離で見守られて習い事に忙しい今の子ども達よりも能天気に子どもでいられた時間は長かったような気がする。
　想定されていた人生の長さごと時代が違うので、どちらが幸せだなんて言えない。ただ、昔話や絵本の中で長らく幼児教育のお約束だった「道草しないでお家に帰る」は死法となりつつあるのかもしれない、とは思う。