ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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通夜一日目ーー朝

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 翌朝、母と伯母と私は六時頃に起きて家族の朝食を作った。

「静子ちゃん、先に食べて。お客さん来るがら食べられる人がら食べんべす食べよう

 みっこ伯母が言った。

「はい。じゃお先に……」

「ああ、先にお父さん呼んできて。晃夫と颯也も」

 と、母。司令塔二人で部下一人、しかも片一方からは命令が複数出るとなると、部下は地味に大変なんだが。

 あちらには当たり前のようにあったコンビニや深夜営業のファミレスが無い代わりに、菓子屋も洋品店もこぞって朝八時に開くような土地柄だから、住人も超のつく朝型人間だ。

 唯一例外の晃夫と颯也を部屋の外から二度声を掛けて起こし、私達より前に起きて仏間を掃除していた父に声をかけた。

「お湯っこ沸いたから、ポットさ麦茶作ってけで」

「麦茶……?」

「うん、お客さん用の」

 この家で、いや、この町のどこの家でも真冬に麦茶なんて出されて飲んだ記憶がない。

 言われた通りに客用のポットの底に市販の麦茶のパックを二つ三つ放り込み、沸いたお湯を注いだ。

 三十代後半ともなれば、お付き合い程度のものから豊の親戚筋までお悔やみも何度か経験している。が、向こうの場合は斎場の待合室で普通に緑茶が出されていた。
 これもしきたり的なものかと思ってそう聞いたら「茶葉を換える手間が要らないから」という答えが当然のように返ってきた。

 曽祖母の頃でも冬、店で麦茶を売っていたんだろうか。颯也の離乳食の時期にはペットボトルもパックの麦茶もあったけど。

 ところでこういう時の父の悪い癖で、生返事ばかりで自分の作業を優先させているので、何かと裏方の作業にも使うダイニングテーブルがなかなか片付かない。

 私がもう一度若者コンビ(当社比)に声を掛け、角を生やしかけた母が父を呼びに行くとぞろぞろ、渋々やって来た男衆が食卓についた。

なんでぇ何だ、そのめぐせぇみっともない腰巻ぎぁ」
 
 開口一番、父が私のサロンエプロンに目をつけて不機嫌そうに言った。

「エプロンだでば。一番地味だすけ、持って来た。新品だ」

 実は普段、台所でエプロンなんか着けない。時間が遅くて、よそ行き着のまま夕飯を作らなければいけない時くらいだが、そんな話をすると父も母もうるさいから黙っている。

 色は濃紺だがデニム風の生地なので、ギリギリ戦中生まれの父にはジーパン=不良のイメージでもあるのだろうか。

 中高生の多感な時期に怖々手を出した流行りのダメージジーンズを

「何でぇ、その"ほいど"よった乞食のような格好ぁ」

 と頭ごなしに怒鳴られた時よりはまだマシかもしれない。

「お母さんさ、何か借りろ」

 いや、お母さんのエプロンこそ、ハ◯エモリの花柄のフリフリとか、そんな系統のばっかりじゃないか。黒とか白の無地でなくてもいいみたいだけど、地味系のエプロンなんてそう何枚も持ってないんじゃないかな。

「はぁい」

……母に探し物の仕事を増やすのも忍びないし、もう一回何か言われたら借りよう。
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