41 / 151
通夜一日目ーー朝
しおりを挟む
翌朝、母と伯母と私は六時頃に起きて家族の朝食を作った。
「静子ちゃん、先に食べて。お客さん来るがら食べられる人がら食べんべす」
みっこ伯母が言った。
「はい。じゃお先に……」
「ああ、先にお父さん呼んできて。晃夫と颯也も」
と、母。司令塔二人で部下一人、しかも片一方からは命令が複数出るとなると、部下は地味に大変なんだが。
あちらには当たり前のようにあったコンビニや深夜営業のファミレスが無い代わりに、菓子屋も洋品店もこぞって朝八時に開くような土地柄だから、住人も超のつく朝型人間だ。
唯一例外の晃夫と颯也を部屋の外から二度声を掛けて起こし、私達より前に起きて仏間を掃除していた父に声をかけた。
「お湯っこ沸いたから、ポットさ麦茶作ってけで」
「麦茶……?」
「うん、お客さん用の」
この家で、いや、この町のどこの家でも真冬に麦茶なんて出されて飲んだ記憶がない。
言われた通りに客用のポットの底に市販の麦茶のパックを二つ三つ放り込み、沸いたお湯を注いだ。
三十代後半ともなれば、お付き合い程度のものから豊の親戚筋までお悔やみも何度か経験している。が、向こうの場合は斎場の待合室で普通に緑茶が出されていた。
これもしきたり的なものかと思ってそう聞いたら「茶葉を換える手間が要らないから」という答えが当然のように返ってきた。
曽祖母の頃でも冬、店で麦茶を売っていたんだろうか。颯也の離乳食の時期にはペットボトルもパックの麦茶もあったけど。
ところでこういう時の父の悪い癖で、生返事ばかりで自分の作業を優先させているので、何かと裏方の作業にも使うダイニングテーブルがなかなか片付かない。
私がもう一度若者コンビ(当社比)に声を掛け、角を生やしかけた母が父を呼びに行くとぞろぞろ、渋々やって来た男衆が食卓についた。
「なんでぇ、そのめぐせぇ腰巻ぎぁ」
開口一番、父が私のサロンエプロンに目をつけて不機嫌そうに言った。
「エプロンだでば。一番地味だすけ、持って来た。新品だ」
実は普段、台所でエプロンなんか着けない。時間が遅くて、よそ行き着のまま夕飯を作らなければいけない時くらいだが、そんな話をすると父も母もうるさいから黙っている。
色は濃紺だがデニム風の生地なので、ギリギリ戦中生まれの父にはジーパン=不良のイメージでもあるのだろうか。
中高生の多感な時期に怖々手を出した流行りのダメージジーンズを
「何でぇ、その"ほいど"よった格好ぁ」
と頭ごなしに怒鳴られた時よりはまだマシかもしれない。
「お母さんさ、何か借りろ」
いや、お母さんのエプロンこそ、ハ◯エモリの花柄のフリフリとか、そんな系統のばっかりじゃないか。黒とか白の無地でなくてもいいみたいだけど、地味系のエプロンなんてそう何枚も持ってないんじゃないかな。
「はぁい」
……母に探し物の仕事を増やすのも忍びないし、もう一回何か言われたら借りよう。
「静子ちゃん、先に食べて。お客さん来るがら食べられる人がら食べんべす」
みっこ伯母が言った。
「はい。じゃお先に……」
「ああ、先にお父さん呼んできて。晃夫と颯也も」
と、母。司令塔二人で部下一人、しかも片一方からは命令が複数出るとなると、部下は地味に大変なんだが。
あちらには当たり前のようにあったコンビニや深夜営業のファミレスが無い代わりに、菓子屋も洋品店もこぞって朝八時に開くような土地柄だから、住人も超のつく朝型人間だ。
唯一例外の晃夫と颯也を部屋の外から二度声を掛けて起こし、私達より前に起きて仏間を掃除していた父に声をかけた。
「お湯っこ沸いたから、ポットさ麦茶作ってけで」
「麦茶……?」
「うん、お客さん用の」
この家で、いや、この町のどこの家でも真冬に麦茶なんて出されて飲んだ記憶がない。
言われた通りに客用のポットの底に市販の麦茶のパックを二つ三つ放り込み、沸いたお湯を注いだ。
三十代後半ともなれば、お付き合い程度のものから豊の親戚筋までお悔やみも何度か経験している。が、向こうの場合は斎場の待合室で普通に緑茶が出されていた。
これもしきたり的なものかと思ってそう聞いたら「茶葉を換える手間が要らないから」という答えが当然のように返ってきた。
曽祖母の頃でも冬、店で麦茶を売っていたんだろうか。颯也の離乳食の時期にはペットボトルもパックの麦茶もあったけど。
ところでこういう時の父の悪い癖で、生返事ばかりで自分の作業を優先させているので、何かと裏方の作業にも使うダイニングテーブルがなかなか片付かない。
私がもう一度若者コンビ(当社比)に声を掛け、角を生やしかけた母が父を呼びに行くとぞろぞろ、渋々やって来た男衆が食卓についた。
「なんでぇ、そのめぐせぇ腰巻ぎぁ」
開口一番、父が私のサロンエプロンに目をつけて不機嫌そうに言った。
「エプロンだでば。一番地味だすけ、持って来た。新品だ」
実は普段、台所でエプロンなんか着けない。時間が遅くて、よそ行き着のまま夕飯を作らなければいけない時くらいだが、そんな話をすると父も母もうるさいから黙っている。
色は濃紺だがデニム風の生地なので、ギリギリ戦中生まれの父にはジーパン=不良のイメージでもあるのだろうか。
中高生の多感な時期に怖々手を出した流行りのダメージジーンズを
「何でぇ、その"ほいど"よった格好ぁ」
と頭ごなしに怒鳴られた時よりはまだマシかもしれない。
「お母さんさ、何か借りろ」
いや、お母さんのエプロンこそ、ハ◯エモリの花柄のフリフリとか、そんな系統のばっかりじゃないか。黒とか白の無地でなくてもいいみたいだけど、地味系のエプロンなんてそう何枚も持ってないんじゃないかな。
「はぁい」
……母に探し物の仕事を増やすのも忍びないし、もう一回何か言われたら借りよう。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
女子小学五年生に告白された高校一年生の俺
think
恋愛
主人公とヒロイン、二人の視点から書いています。
幼稚園から大学まである私立一貫校に通う高校一年の犬飼優人。
司優里という小学五年生の女の子に出会う。
彼女は体調不良だった。
同じ学園の学生と分かったので背負い学園の保健室まで連れていく。
そうしたことで彼女に好かれてしまい
告白をうけてしまう。
友達からということで二人の両親にも認めてもらう。
最初は妹の様に想っていた。
しかし彼女のまっすぐな好意をうけ段々と気持ちが変わっていく自分に気づいていく。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
魔術師の妻は夫に会えない
山河 枝
ファンタジー
稀代の天才魔術師ウィルブローズに見初められ、求婚された孤児のニニ。こんな機会はもうないと、二つ返事で承諾した。
式を済ませ、住み慣れた孤児院から彼の屋敷へと移ったものの、夫はまったく姿を見せない。
大切にされていることを感じながらも、会えないことを訝しむニニは、一風変わった使用人たちから夫の行方を聞き出そうとする。
★シリアス:コミカル=2:8
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

ご飯を食べて異世界に行こう
compo
ライト文芸
会社が潰れた…
僅かばかりの退職金を貰ったけど、独身寮を追い出される事になった僕は、貯金と失業手当を片手に新たな旅に出る事にしよう。
僕には生まれつき、物理的にあり得ない異能を身につけている。
異能を持って、旅する先は…。
「異世界」じゃないよ。
日本だよ。日本には変わりないよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる