ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

文字の大きさ
32 / 151

ただいま 9〜おばあちゃんの遺影〜

しおりを挟む
 毎年夏休みの帰省から戻る日、写真好きの父が全員を並べて記念撮影をした。祖母をそこに入れようとするたびに「葬式の写真、撮る気だべ」と不機嫌になった。
 米寿のお祝いの時は嫌がらずに撮られていた。

 祖母の遺影は十年ほど前、二泊三日の老人会の旅行で山形の花笠音頭を見に行った時に写してもらったスナップ写真だそうだ。

 行く前の日ギリギリまで

「なぁに、はぁ先も長ぐねえのさせっちょう吐いで大変な思いをして行きたぐもねえ」

「どこそこのっかぁも、どこそこの父さんもはぁ亡ぐなって、オレだげ行ってなじょすっちょうどうするんだ

 と、毎年恒例の繰言のオンパレードを並べ、父がそれをなだめてバスに乗せる。

 帰ってくるとケロッとして、「山形の花笠ぁ見で来た。まぁで本当に綺麗姉さんどうだったぁ」と、帰省した私にも嬉しそうに写真を見せてくれた。

 憎まれ口も僻み根性も、狭く封建的な僻地で戦中戦後の貧しさを地を這うように生き延びてきた恨み辛みも無縁な人のように、写真の中では記憶の中よりも若々しい祖母が、初夏の青空のように朗らかに笑っていた。

 この頃はまだ、小さな颯也を座ったまま抱っこしたり、膝に乗せたりしていた。
 颯也はどんどん大きくなって活発に動くようになり、悠也が生まれた時の祖母は腕力も弱り、足腰が利かなくなっていった。

 
「晩ご飯はお握りでいいべえが?焼き場(火葬場)で頼んだのが一杯余ってで」

 父以上に大変なのはみっこ伯母や颯也を含めた六人の食事の心配をしつつ、弔問客の茶菓や酒宴の差配をしなければならない母なので異論などあるはずがない。
 昭和のままのダイニングキッチンで母の作ってくれた味噌汁とお握りを食べ、晩ご飯を済ませた。火葬組も移動組も今朝は早かったし、明日も早い上にしばらくは体力勝負なので、順番に風呂に入って早めに寝ることになった。

「一階は朝早くから人が来るすけ来るから、静子も颯也も二階で寝てね」

 食後のお茶を煎れながら母が言った。

 昔、仏間の南に玄関から続く縁側があったのだが、私たち一家が夏に帰省した時に手狭だという理由で数年前に父がサンルーム付きの洋間を増築した。

 そこができる前は、子ども達がまだ小さかった事もあり二階にある元・私の部屋のフランスベッドの上と床に布団を敷いて、子どもは大人にくっついて寝ていた。

 土地が余っている田舎の家だから部屋数も多いが物も多い。一年に一度のことなので別に「断捨離」すればいいだけの事ではないのか、仏間でも別に狭くははないし……と父の事後報告を聞きながらその部屋を見て思ったものだが、父の頭の中にはいつかくる今日のことがあったらしい。

 祖母は増築について「葬式さ使うべえと思って……」とは言わなかったようだ。独身生活絶賛謳歌中の晃夫が結婚した時の想定でもしてたんだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ことりの古民家ごはん 小さな島のはじっこでお店をはじめました

如月つばさ
ライト文芸
旧題:ことりの台所 ※第7回ライト文芸大賞・奨励賞 都会に佇む弁当屋で働くことり。家庭環境が原因で、人付き合いが苦手な彼女はある理由から、母の住む島に引っ越した。コバルトブルーの海に浮かぶ自然豊かな地――そこでことりは縁あって古民家を改修し、ごはん屋さんを開くことに。お店の名は『ことりの台所』。青い鳥の看板が目印の、ほっと息をつける家のような場所。そんな理想を叶えようと、ことりは迷いながら進む。父との苦い記憶、母の葛藤、ことりの思い。これは美味しいごはんがそっと背中を押す、温かい再生の物語。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯

☆ほしい
ファンタジー
ギルド受付嬢の佐倉レナ、外見はちょっと美人。仕事ぶりは真面目でテキパキ。そんなどこにでもいる女性。 でも実はその正体、数年前まで“災厄クラス”とまで噂された元Sランク冒険者。 今は戦わない。名乗らない。ひっそり事務仕事に徹してる。 なぜって、もう十分なんです。命がけで世界を救った報酬は、“おひとりさま晩酌”の幸福。 今日も定時で仕事を終え、路地裏の飯処〈モンス飯亭〉へ直行。 絶品まかないメシとよく冷えた一杯で、心と体をリセットする時間。 それが、いまのレナの“最強スタイル”。 誰にも気を使わない、誰も邪魔しない。 そんなおひとりさまグルメライフ、ここに開幕。

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...