ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

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ただいま 9〜おばあちゃんの遺影〜

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 毎年夏休みの帰省から戻る日、写真好きの父が全員を並べて記念撮影をした。祖母をそこに入れようとするたびに「葬式の写真、撮る気だべ」と不機嫌になった。
 米寿のお祝いの時は嫌がらずに撮られていた。

 祖母の遺影は十年ほど前、二泊三日の老人会の旅行で山形の花笠音頭を見に行った時に写してもらったスナップ写真だそうだ。

 行く前の日ギリギリまで

「なぁに、はぁ先も長ぐねえのさせっちょう吐いで大変な思いをして行きたぐもねえ」

「どこそこのっかぁも、どこそこの父さんもはぁ亡ぐなって、オレだげ行ってなじょすっちょうどうするんだ

 と、毎年恒例の繰言のオンパレードを並べ、父がそれをなだめてバスに乗せる。

 帰ってくるとケロッとして、「山形の花笠ぁ見で来た。まぁで本当に綺麗姉さんどうだったぁ」と、帰省した私にも嬉しそうに写真を見せてくれた。

 憎まれ口も僻み根性も、狭く封建的な僻地で戦中戦後の貧しさを地を這うように生き延びてきた恨み辛みも無縁な人のように、写真の中では記憶の中よりも若々しい祖母が、初夏の青空のように朗らかに笑っていた。

 この頃はまだ、小さな颯也を座ったまま抱っこしたり、膝に乗せたりしていた。
 颯也はどんどん大きくなって活発に動くようになり、悠也が生まれた時の祖母は腕力も弱り、足腰が利かなくなっていった。

 
「晩ご飯はお握りでいいべえが?焼き場(火葬場)で頼んだのが一杯余ってで」

 父以上に大変なのはみっこ伯母や颯也を含めた六人の食事の心配をしつつ、弔問客の茶菓や酒宴の差配をしなければならない母なので異論などあるはずがない。
 昭和のままのダイニングキッチンで母の作ってくれた味噌汁とお握りを食べ、晩ご飯を済ませた。火葬組も移動組も今朝は早かったし、明日も早い上にしばらくは体力勝負なので、順番に風呂に入って早めに寝ることになった。

「一階は朝早くから人が来るすけ来るから、静子も颯也も二階で寝てね」

 食後のお茶を煎れながら母が言った。

 昔、仏間の南に玄関から続く縁側があったのだが、私たち一家が夏に帰省した時に手狭だという理由で数年前に父がサンルーム付きの洋間を増築した。

 そこができる前は、子ども達がまだ小さかった事もあり二階にある元・私の部屋のフランスベッドの上と床に布団を敷いて、子どもは大人にくっついて寝ていた。

 土地が余っている田舎の家だから部屋数も多いが物も多い。一年に一度のことなので別に「断捨離」すればいいだけの事ではないのか、仏間でも別に狭くははないし……と父の事後報告を聞きながらその部屋を見て思ったものだが、父の頭の中にはいつかくる今日のことがあったらしい。

 祖母は増築について「葬式さ使うべえと思って……」とは言わなかったようだ。独身生活絶賛謳歌中の晃夫が結婚した時の想定でもしてたんだろうか。
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