ばあちゃんの豆しとぎ

ようさん

文字の大きさ
上 下
27 / 151

ただいま 4〜故郷の街並み〜

しおりを挟む
「晃夫が今、来るすけ来るじょうすけ、くるそうだから駅さ入って火っこさあだって待ってろ暖房のある所で待ってなさい

 父はそう言って申し訳無さそうにする伯母と長内さんを乗せて家に戻って行った。

 故郷の駅舎は町を出た時の古びたコンクリート駅舎だ。北は八戸から青森、南は宮古から釜石、そして仙台まで路線がが繋がっている。山海の幸に恵まれながら山と海に隔絶された沿線住民の、近代以来の悲願だったはずなのだが、紆余曲折を経て昭和の半ばに全通した時にはもうモータリゼーションとマイカーブームがこの僻地にも到来していて、各駅停車のローカル線新は赤字路線化が確定していた。
 私自身、高校の時友人とファンだったアーティストのコンサートのために八戸まで遠征したり、隣村に住む先輩の家に遊びに行ったりしたきりで、もう何年も駅舎の中に足を踏み入れてないーーいや、学生時代に新幹線の切符を買ったか。
 駅の待合室には昔ながらのダルマストーブが置いてあり、ほっかむりをした祖母や母の年代の行商のおばさん達がーーすぐ横の売店のおばちゃんも一緒になってーー西陽の差し込む空間で四方山話に花を咲かせていた。
 一応気になって中に入ってみたが、小綺麗に改装されていてストーブも彼女達ももうそこにはなく、バスの切符売り場の人の年配の駅員が暇そうにしているだけだった。
 弟の晃夫が来るまで15分か20分くらいはかかるだろう。暖房は効いていて椅子は空いているから待つ分には差し支えないがずっと座りっぱなしだったし、せっかくだから雪の中の道を颯也と歩いてみるのもいいかと思った。
 駅に来る道はどのみち一本だし、行き違うことはないだろう。

 という訳で母子二人、シャッターを閉めっぱなしの店が記憶の中より目立つ、駅前の通りを危なっかしくつるつるしながら歩いて行く。

 中学と高校生の頃は自転車通学だった。多少の雨はもちろん、降り始めの雪や道路が除雪された後ならカッパを着たりスリップに用心したりしながら自転車で行った。
 とは言え、街中の道路以外は雪掻きし切れずに凍っている道の方が多かった。
 ヘルメット着用義務化以前の時代なので、校則で決められていた中学生の三年間は渋々被っていたが、高校生になったらもちろん被らない。チェーンなんかも巻かないので今思えば危険極まりないのだが、運動神経がイマイチな私でも中学の最初の冬に一度派手に転んだくらいのものだ。
 大人も子どももそれが半ば当たり前のような光景だったが、もしかしたら建前上は禁止されていたのかもしれない。

 いよいよ雪が積もると歩いて駅まで出て、高校までバスに乗った。それが一時間くらいの道中だった。

 それでも多忙な親に車で送ってもらうということはまずなかった。
 かといって、雪の積もった日に焦ったとか必死に急いだ記憶もないし、遅れる生徒に始業時間を合わせてくれるという事もなかった。

 大人も子どもも雪があるという前提で暮らしていたし、それが普通だった……そんな話をしながら母子二人、よたよたと歩く。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~

Repos
ライト文芸
カフェ開業を夢見たマキノが、田舎の古民家を改装して開業する物語。 おいしいご飯がたくさん出てきます。 いろんな人に出会って、気づきがあったり、迷ったり、泣いたり。 助けられたり、恋をしたり。 愛とやさしさののあふれるお話です。 なろうにも投降中

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

魔術師の妻は夫に会えない

山河 枝
ファンタジー
 稀代の天才魔術師ウィルブローズに見初められ、求婚された孤児のニニ。こんな機会はもうないと、二つ返事で承諾した。  式を済ませ、住み慣れた孤児院から彼の屋敷へと移ったものの、夫はまったく姿を見せない。  大切にされていることを感じながらも、会えないことを訝しむニニは、一風変わった使用人たちから夫の行方を聞き出そうとする。 ★シリアス:コミカル=2:8

女子小学五年生に告白された高校一年生の俺

think
恋愛
主人公とヒロイン、二人の視点から書いています。 幼稚園から大学まである私立一貫校に通う高校一年の犬飼優人。 司優里という小学五年生の女の子に出会う。 彼女は体調不良だった。 同じ学園の学生と分かったので背負い学園の保健室まで連れていく。 そうしたことで彼女に好かれてしまい 告白をうけてしまう。 友達からということで二人の両親にも認めてもらう。 最初は妹の様に想っていた。 しかし彼女のまっすぐな好意をうけ段々と気持ちが変わっていく自分に気づいていく。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

処理中です...